標準旅行業約款は、その土台がつくられたのが1980年代であり、当時と現在では旅行業界を取り巻く環境も大きく変わって来ました。
特に、旅行商品については様々な種類のものが組成されるようになってきており、航空券や宿泊施設といった旅行素材についても選択肢が広がりました。
その中で、旅行の取消料金については、古い時代の枠組みのままでは旅行会社が旅行者から取消料を十分に受け取ることができず、結果的に旅行会社が損をするというリスクも抱えるようになりました。
そこで、一定の類型について、旅行業協会と観光庁が事前に協議をしたうえで、雛形的に使うことのできる個別認可約款を策定することになったのです。
この記事では、そうした個別認可約款の概要等について解説しています。
- 標準旅行業約款と個別認可約款の違い
- 個別認可約款の全体像
- 定型個別認可約款の特徴
標準旅行業約款
標準旅行業約款は、観光庁長官と消費者庁長官が共同で内容を定めている旅行業約款です。
旅行会社さんは、旅行業の営業をするにあたって旅行業約款を定めて観光庁長官認可を事前に取得しなければならないというの、旅行業法が原則です。
しかし、この標準旅行業約款を使用することで、旅行業約款の認可を受けたものとして取扱われるため、多くの旅行会社ではこの標準旅行業約款を使用しています。
個別認可約款
旅行業法では、旅行会社さんは旅行者と旅行業務に関する契約を結ぶ際に使用する旅行業約款を作成して、観光庁長官または都道府県知事の認可を事前に受けなければならないとしています(観光庁長官の認可について、旅行業法第12条の2第1項。都道府県知事の認可について、旅行業法第67条、旅行業法施行令第5条第1項)。
観光庁長官は、下記の2つの基準によって旅行業約款を認可するかどうか判断します(旅行業法第12条の2第2項)。
①旅行者の正当な利益を侵害する心配がないものかどうか
②少なくとも、旅行業務取扱料金や、金銭の受渡し・払戻しに関する事項、旅行会社の責任に関する事項が明確に定められているかどうか
個別認可約款とは、観光庁長官または都道府県知事の認可を受けた、標準旅行業約款以外の旅行業約款のことを指します。
個別認可約款は、標準旅行業約款を基準として、それよりも旅行者にとって不利になる内容の場合は、認可されません。
たとえば、旅行会社側の責任をどんなときでも免責にしてしまう内容や、取消料を標準旅行業約款で定められている時期よりも早い時期から請求できるようにする内容が、認可されない事例に該当します。
実務的には、一定のツアー類型に関して、標準旅行業約款を適用すると旅行会社側が明らかに不利になってしまうようなものに対して、旅行業協会が観光庁と協議を行い、協議を経た内容を類型化して個別の認可を取得できるようにしています。
類型化されている定型的な個別認可約款以外で認可を受けようとする場合、標準旅行業約款よりも旅行者が不利になるような内容での認可申請については認可が出ないので、旅行業約款の個別の認可申請は、類型化された定型個別認可約款に関するものが中心です。
なお、個別約款の認可申請は、第1種旅行業者の場合は主たる営業所を管轄する地方運輸局へ、それ以外の第2種、第3種、地域限定旅行業者の場合は都道府県宛に行うことになります。
類型化されている約款であれば、早ければ1~2週間程度で認可が下ります。
旅行業者代理業者は、自社で独自の旅行業約款を定めることはできませんが、所属旅行会社や所属旅行会社が他の旅行会社とする受託契約によって他社の募集型企画旅行を販売する場合の当該他の旅行会社が定める旅行業約款を掲示または備置く義務があります(旅行業法第12条の2第3項)。
また、旅行サービス手配業者についても、旅行者との直接取引を行う営業種別ではないことから、旅行業約款に関する規定はありません。
以下、現在類型化されている個別認可約款についてそれぞれ解説しております。
フライ&クルーズ約款
まず、フライ&クルーズとは、飛行機(フライ)でクルーズ船の出航場所まで行き、そこからクルーズ船に乗って旅行に出かけることです。
一般的には、クルーズ船の発着が海外で、現地まで飛行機で飛んでクルーズ船旅行に参加することを指す場合が多いです。
クルーズ船のような船舶の場合、予約をキャンセルした際に、60日前や90日前といった比較的早い段階でクルーズ船の運営会社から取消料を請求されるキャンセルポリシーとなっていることがあります。
一方、標準旅行業約款では、海外旅行の取消料について、旅行開始日の30日前(ピーク時には40日前)より前にキャンセルされたものについては、取消料を請求することができない決まりになっています(受注型企画旅行の場合は、企画書面に企画料金を記載した時のみ、30日前より以前であっても企画料金に相当する額の取消料を請求することが可能です)。
仮に標準旅行業約款の規定とは関係なく、旅行者と個別で取消料を請求できる特約を結んだとしても、旅行者の不利になる特約は標準旅行業約款上効力が無いものとされてしまうので、旅行者に対して取消料を請求することはできません。
この場合、旅行会社はクルーズ船の取消料を自社で負担しなければなりません。
こうしたフライ&クルーズの企画旅行について、一定の条件の下で旅行者に対して取消料を請求することができるようにする個別旅行業約款の認可を、フライ&クルーズ約款と呼びます。
フライ&クルーズ約款では、旅行日程中に3泊以上のクルーズ日程を含む海外募集型企画旅行と海外受注型企画旅行について、下記の通りの取消料を収受することが可能になります。
①クルーズ中の泊数が、全旅行日程の泊数の50%以上の場合:クルーズ取消料の2分の1以内の金額
②クルーズ中の泊数が、全旅行日程の泊数の50%未満の場合:クルーズ取消料の4分の1以内の金額
③旅行開始後のキャンセル、または「ノーショウ」の場合:旅行代金の100%以内の金額
フライ&クルーズ約款の詳細な認可申請手続等についての記事もあるので、気になる方はぜひ以下の記事も併せてご覧ください。
ランドオンリー約款
ランドオンリーとは、日本から海外に向かう航空機と海外から日本に戻ってくるに航空機ついて、旅行者が自分でチケットを確保して、旅行会社が提供する海外現地発着のツアーに参加するものをいいます。
この場合、標準旅行業約款の取消料に関する以下の規定がネックとなって、旅行者に対して取消料を請求することができません。
①日本を出国または日本へ帰国する飛行機を利用した企画旅行
②貸し切り航空機を利用した企画旅行
③日本を出国および日本へ帰国する船舶を利用した企画旅行
①を見ると、出国か帰国のどちらかで飛行機を利用していない企画旅行の場合は、取消料が請求できないことになります。
ランドオンリー旅行は、航空会社などが提供するマイレージを活用して旅行者が自分で無料航空券を往復で手配して、現地発着のツアーだけ旅行会社経由で申し込むというものになっているので、この場合には旅行者が直前にキャンセルをしたり、ノーショウだったとしても取消料を回収できないことになってしまいます。
このような状況に対応するために、ランドオンリー旅行についても取消料を収受することができるように個別約款が用意されています。
このランドオンリー約款(現地発着約款とも言います。)を使用することで、「海外を出発地および到着地」とする旅行契約についても、「日本を出国または日本へ帰国する飛行機を利用した企画旅行」と同じ利率の取消料を収受することが可能になります。
フライ&クルーズ約款とランドオンリー約款は別々に認可申請を出すこともできますが、フライ&クルーズ/ランドオンリー約款としてまとめて申請をすることもあります。
ランドオンリー約款の詳細な認可申請手続等についての記事もあるので、気になる方はぜひ以下の記事も併せてご覧ください。
受注型企画旅行契約実額精算約款
標準旅行業約款には、取消料に関する規定が設けられています。
募集型企画旅行と受注型企画旅行では内容が少し異なりますが、海外募集型企画旅行の場合、取消料を請求できる1番早いタイミングでも、旅行開始日前日の40日前から、となっています。
このようなときに、たとえばPEX運賃が適用される航空機を利用する場合や、キャンセルポリシーの厳しい宿泊施設を利用する場合には、旅行会社が旅行者から受け取ることのできる取消料よりも、旅行会社が航空会社や宿泊施設に支払わなければならないキャンセル料の方が高くなることがあり、旅行会社にとって大きなリスクとなってしまいます。
そこで、受注型企画旅行に限って、一定の条件を満たすことで運送機関や宿泊施設といった旅行サービス提供事業者が設定するキャンセル料金の実際の金額を、旅行者に対して請求できる個別約款の認可を受けることができるようになっています。
受注型企画旅行では、旅行者の旅行の申込みに対して、旅行者が企画書面を交付して、その内容を確認して旅行者が正式に申込むという業務フローをたどります。
この企画書面を交付する際に、運送機関や宿泊施設が定める取消料が分かる証憑書類を提示することにより、いざキャンセルとなった際に取消料の実額を請求できるという仕組みです。
受注型企画旅行が対象となる個別認可約款のため、募集型企画旅行には適用できないので注意が必要です。
認可のための個別の手続については、以下の記事をご参照ください。
募集型PEX約款
PEXとはPEX運賃のことで、航空会社による正規の割引が行われている運賃のことです。
PEX運賃の航空チケットは、航空会社から個人に直接販売できることが特徴ですが、旅行会社経由で販売することも可能です。
飛行機の「普通運賃」という考え方に対して「特別運賃」というものがあり、PEX運賃は特別運賃の1つの類型ということになります。
PEX運賃は、普通運賃よりも安い金額で航空機を使用できるメリットがある一方、発券期間、有効期限、取消料等について制約があります。
一般的に、PEX運賃による航空券は通常の航空券よりも早い段階で取消料が発生することから、PEX運賃の適用される航空券を旅行商品の中に組み込む場合、標準旅行業約款に規定されている取消料では旅行会社に実損が出る可能性があります。
そのため、一定の基準を満たせば、PEX運賃を利用した募集型企画旅行について、旅行者が旅行会社に支払う標準旅行業約款で定められた取消料よりも旅行会社が航空会社に支払う取消料が大きい場合は、旅行会社が航空会社に支払う取消料の範囲内で、旅行会社が旅行者に取消料を請求することができることとなる個別約款の認可を受けることができます。
正式な名称は「PEX運賃等の取消料・違約料を反映した取消料を設定することができる旅行業約款」です。
認可申請のための具体的な手続については、以下をご参照ください。
旅程保証約款
旅程保証約款は、宿泊施設がアップグレードされた場合でも変更補償金を支払わなくても良い、という内容の個別約款です。
標準約款の中には旅行契約の内容のうち重要なものの変更に対して、旅行会社が旅行者に補償金を支払わなければならない場面がいくつか規定されています。
この保証金のことを変更補償金といいます。
変更補償金の支払が必要な場面の中に、「契約書面に記載した宿泊機関の客室の種類、設備、景観その他の客室の条件の変更」というものがあります。
運送機関の変更についても変更補償金を支払わなければならないとされており、運送機関の場合には「等級又は設備のより低い料金の者への変更」という縛りがあります。
宿泊施設については、業界共通の客観的な等級がないことや、旅行者の主観的な評価も異なるため、いわゆる「アップグレード」をする場合でも変更補償金を支払わなければならないとされているのです。
自社で旅程保証約款の個別認可を受けると、ホテルのグレードを含めたリストを作成して、取引条件説明書面の一部として交付することで、アップグレードした場合の変更補償金を支払わないとすることができます。
正式な名称は「宿泊施設がより高い等級のものへ変更になった場合に変更補償金の支払い対象としないこととすることができる旅行業約款」です。
募集型PEX約款と旅程保証約款はあわせて認可申請をすることもあります。
詳細な認可申請の手続は以下の記事をご参照ください。
受注型企画旅行契約BtoB約款
旅行業約款は、旅行者である個人が旅行会社と契約を結び、旅行の主体もその個人であることを想定しています。
しかし、中には契約の主体と旅行者が一致しない場合も存在します。
例えば、会社等の法人事業者が契約の主体になるような場合です。
懸賞旅行や招待旅行が当てはまります。
このようなときには、旅行業法のそもそもの目的である「消費者」の保護を図る必要が無いため、事業者間の合意(特約)で取消料を設定できるとした個別約款が、BtoB約款です。
BtoB約款は、旅行契約の相手方を旅行者ではなく事業者としているため、既存の約款を変更するというよりも、「事業者を相手方とする受注型企画旅行契約の部」が追加される形で認可を受けることとなります。
国内募集型企画旅行契約IIT約款
2020年4月から、日本の航空大手2社(ANAとJAL)は、国内線の航空券に対して、個人包括旅行運賃(新IIT運賃)という、可変運賃(ダイナミックプライシング)の制度を導入しました。
従来のIIT運賃は、もともと航空会社が旅行会社のために卸す航空券に適用される特別運賃の1つで、個人包括旅行割引運賃とも言います。
新IIT運賃は、空席率に連動して運賃が変動するというものです。
JALとANAがこの新IIT運賃を導入したことにより、PEX運賃と同じように、早期から取消手数料が発生することから、標準旅行業約款の取消料規定では対応できないケースが発生することが考えられます。
そこで、新IIT運賃の取消手数料等に対応するため、募集型企画旅行契約の国内旅行に限って、一定の条件を満たすことで個別約款の認可を受けることができることになりました。
旧IIT運賃(包括旅行割引運賃)等の1名から利用することができない運賃は対象外となり、1名から利用できる新IIT運賃のみが個別約款の適用対象です。
個別約款の認可を受けることで、標準旅行業約款で規定する取消料を請求することができる期日よりも前の日程でも、航空券の取消料と同額を旅行者に請求することができます。
契約書面で、新IIT運賃を利用することや航空会社の名称等、一定事項の明示が必要です。
なお、新IIT運賃の導入によって、募集型企画旅行の広告については、従来のように最低金額から最高金額の幅が確定しなくなってしまったため、表記の方法について一定の影響を受けることになりました。
新IIT運賃の個別約款に関する認可申請手続については以下の記事をご参照ください。
- 標準旅行業約款とは異なる規定を適用したい場合は、個別で認可を受ける必要がある
- ある一定の類型化された旅行形態については、定型化された個別約款が用意されている
- 個別約款の多くは、標準旅行業約款では対応できない取消料関連の対策が行われている
標準旅行業約款を採用している旅行会社さまで、この記事で解説してきたような旅行商品の販売をしている場合には、少し手間がかかっても、個別約款の認可を受けておいた方が良いこともあります。
標準旅行業約款は、旅行者を保護するという目的が強く出ており、どちらかといと旅行会社側に不利な規定もございます。
取消料を請求することができるかどうかについては、リスク回避の観点からも非常に重要です。
行政書士TLA観光法務オフィスでは、個別約款の認可申請に関するお手伝い・コンサルティングに対応しております。
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