旅行業約款の制度解説と必要な手続

旅行業約款の制度解説と必要な手続
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旅行会社は、旅行業法という法律の中で様々なルールを守ることが求められています。
その内の1つに、旅行業約款の作成があります。
旅行者の利益を保護するために、事前に監督官庁の認可を受けた約款=契約書を公開しておく義務があります。
これらの義務を守らないと、行政所処分の対象ともなります。

この記事では、旅行業約款制度の全体像と、旅行会社がその義務を果たさなかった場合の行政所処分などについて解説をしています。
前半は旅行業約款に限らず、世の中の様々な約款そのものの解説や、制度の変遷について触れているため、いち早く旅行会社の義務や行政処分の内容を知りたいという方は、こちらをクリックしてください。

この記事を読んでわかること

  • 旅行業約款制度の全体像
  • 旅行会社にどのような義務があるのか
  • 義務に違反するとどうなってしまうのか

目次

約款とは何か

約款の一般的な定義

実は、約款についての法律上の明確な定義はありません。

2017年の改正民法(2021年4月1日から施行)では「定型約款」という考え方が新たに創設されましたが、これは約款といわれているもののうち、一部を切り取って明文化したものです。

このような状況の中で約款とは何かと聞かれたら、「同じような契約を多数の人と大量に結ぶための、事前に定型化した契約条項の集合体」ということになります。

約款的な性質をもつものは、約款という名称にとらわれず、例えばサブスクリプションサービスの利用申し込みをする際の利用規約なども、約款の一種といえます。
こうした利用規約以外にも、水光熱や通信サービス等の利用契約、保険契約、あるいは公共交通機関を利用する際の運送契約も約款です。

民法が定める定型約款

2017年の民法改正で、定型約款という概念が新しく創設されました。
改正民法では、定型約款について以下の規定が置かれています。

定型取引を行うことの合意をした者は、次に掲げる場合には、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
一 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
二 定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。

定型取引とは、ある特定の者が不特定多数を相手方として行う取引で、その内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもののことをいいます。
定型約款とは、定型取引で、契約の内容とすることを目的として定型取引をする特定の者により準備された条項の総体をいいます。

定型取引をすることについて合意した場合で、①定型約款を契約内容とする合意をするか、②定型約款を準備した者が事前に定型約款を契約内容とすることを相手に表示するか、どちらかを満たしたときに、定型約款の個別の条項についても合意したこととする取扱いがなされます。

旅行業約款

旅行業約款の法的な根拠

第1種旅行業の登録を受けている旅行会社は、旅行者と締結する旅行業務の取扱いに関し、旅行業約款を定め、観光庁長官の認可を受けなければならないとされています(旅行業法第12条の2第1項)。
第2種旅行業、第3種旅行業、地域限定旅行業の登録を受けている旅行会社は、登録行政庁である都道府県知事による認可が必要です(旅行業法第67条、旅行業法施行令第5条第1項)。

旅行に関する契約は、同種の内容の契約を不特定多数の人を相手にしてするものなので、まさに約款を作成するのにふさわしい契約類型です。

旅行業法が、約款を作成するだけではなく事前認可制としているのは、旅行者を保護するという目的のためです。
約款はその性質上、契約当事者ごとに契約内容を交渉することを予定していないため、約款を作成する側の意向が強く反映されがちです。
旅行契約は、旅行に関する事務のプロである旅行業者と、素人である一般旅行者との間の取引になるため、どうしても情報や立場に格差が出てきます。
このときに、旅行業者にとって一方的に有利な契約内容とならないようにするため、事前認可制を取っています。

また、約款を作成させることの意義としては、契約をする上で必ず取引条件を書面に残させるという側面もあります。

なお、旅行業者代理業者と旅行サービス手配業者については、自社で独自の旅行業約款を定めることはできません。

旅行業約款の変遷

旅行あっ旋業法時代

旅行業法は、昭和27年に旅行あっ旋業法という形で成立しました。
当時は旅行業約款のような規定や、契約に際して書面の作成を促すような規定は存在していませんでした。
旅行あっ旋業法は今でいう旅行会社の取り締まりを目的としていた法律のため、悪徳な事業者から旅行者を保護する目的で、昭和31年の法改正により約款(当時は旅行あっ旋約款)を作成し、事前に届け出ることが義務付けられました。

届出のあった約款が旅行者の利益を害するようなものである場合には、運輸大臣(現在の国土交通大臣)はその内容を変更することを命令する権限がありました。
実務的には、旅行業協会が用意したモデル旅行業約款に準拠する形で各会社が届出を行っていたようです。

旅行あっ旋約款の届出制度は、昭和46年の法改正まで続くことになります。

旅行業法への改正

旅行あっ旋業法として旅行あっ旋をする事業者の取り締まりをしていた法律は、昭和46年に現在の旅行業法に名称を変えて、より旅行者の保護に重きを置くようになっていきます。
この昭和46年改正時に、旅行あっ旋約款と呼ばれていた約款は旅行業約款に名称を変えて、事前届出制だったものが事前に認可を受けることが義務付けられるようになりました。

この改正当初はまだ現在の標準旅行業約款制度は用意されておらず、届出時代と同様に、旅行業協会が作成したモデル約款に準拠する形で認可を受けることが多かったようです。

現在にいたるまで、旅行業約款は事前認可制を原則としています。

標準旅行業約款

標準旅行業約款の法的な根拠

旅行業約款は事前認可制となっているところですが、全ての旅行会社がイチから旅行業約款を作成して、そのすべての認可をすることは認可する側、される側双方にとって負担が大きいと言えます。
また、旅行者の保護という目的を達成するためには、ある程度業界としての共通基準を定めておく方が、最低限の室の担保という意味でも意義のあるものといえます。

そこで、旅行業法では、観光庁長官と消費者庁長官が標準旅行業約款を定めて公示した場合で、旅行業者がこの標準旅行業約款を自社の旅行業約款として利用することを選択したときには、観光庁長官の認可を受けたものとして取扱うことになりました(旅行業法第12条の3第1項)。

そこで、旅行業法では、観光庁長官と消費者庁長官が標準旅行業約款を定めて公示した場合で、旅行業者がこの標準旅行業約款を自社の旅行業約款として利用することを選択したときには、観光庁長官の認可を受けたものとして取扱うことになりました(旅行業法第12条の3第1項)。

現在の標準旅行業約款は、①募集型企画旅行契約の部、②受注型企画旅行契約の部、③特別補償規程、④手配旅行契約の部、⑤渡航手続代行契約の部、⑥旅行相談契約の部の6編から成り立っています。

標準旅行業約款の変遷

標準旅行業約款制度は、旅行あっ旋業法が旅行業法として改正された、次の改正時に新しく制度として組み込まれました。
昭和57年の旅行業法改正です。
当時は消費者庁も無かったので、運輸大臣が定めて公示することとされていました。
実際には、旅行業協会等の業界関係者や有識者が作成したものが土台となっております。

その後平成21年に消費者庁を設置するための法律が成立したことにより、標準旅行業約款は観光庁長官と消費者庁長官が定めて公示することとなっております。

旅行業約款の個別認可と標準旅行業約款

旅行業約款は、各旅行会社が約款を定めて観光庁長官・都道府県知事の認可を受けることが原則となっています。
しかし、公示されている標準旅行業約款を自社の旅行業約款として定めることで、この認可を受けたこととして取扱われることは、ここまで説明してきたとおりです。

個別で旅行業約款の認可を受けようとすると、標準旅行業約款を基準として、それよりも旅行者が不利になるような内容の約款を作成することは現実的にできないため、ゼロからオリジナルの約款を作成して認可を受けるということはまずありません。

それではすべての会社が、標準旅行業約款を使用しているかというと必ずしもそうではなく、ある取引類型に特有の課題を解決するために、認可を受けることができるように標準旅行業約款の一部を変更する、プリセット型定型個別認可約款が準備されています。

認可を受けることができる定型個別認可約款は、現在以下のとおり8種類あります。

①ランドオンリー約款
②フライ&クルーズ約款
③コンビニエンスストア等を使用した募集型企画旅行商品等の販売に関する約款
④受注型企画旅行契約実額精算約款
⑤PEX運賃等の取消料・違約料を反映した取消料を設定することができる旅行業約款
⑥旅程保証約款
⑦受注型企画旅行契約BtoB約款
⑧国内募集型企画旅行契約IIT約款

それぞれの約款で認可を受けることができる条件は異なりますが、オペレーションの確立や保険契約の締結などによって、個別の認可を受けることが可能です。

それぞれの約款の概要については、以下の記事でも解説しておりますので、ご興味がございましたらご参照ください。

旅行業約款に関する旅行会社の義務

旅行業約款に関する義務

旅行会社は、旅行者と契約をするため、旅行業約款を作成して観光庁長官の認可を受け、認可を受けた約款を旅行者が閲覧することができるように営業所に備置くか、旅行者が見えやすいように営業所に掲示する義務があります(旅行業法第12条の2第1項、第3項)。
作成時だけでなく、変更時にも認可が必要です。

観光庁長官がする認可事務は、第2種旅行業者、第3種旅行業者、地域限定旅行業者の場合には登録を受けている都道府県知事がすることともされています(旅行業法第67条、旅行業法施行令第5条第1項)。

旅行業約款の掲示・備置き義務については、旅行会社が、他の旅行会社の募集型企画旅行商品を代理販売することを内容とする受託契約を結んだ場合には、自社の旅行業約款に加えて、その代理販売をする他社旅行会社の旅行業約款も、掲示または備置く必要があります(旅行業法第12条の2第3項カッコ書)。

その他、旅行業者代理業者所属旅行会社の旅行業約款に加えて、所属旅行会社が前掲の他社募集型企画旅行を代理販売をする場合で、受託契約の中で旅行業者代理業者も他社募集型企画旅行を販売することができる旨を定めているときは、代理販売をする他社旅行会社の旅行業約款についても、掲示または備置く必要があります(旅行業法第12条の2第3項カッコ書、旅行業法第14条の2第2項)。

事前に公示されている標準旅行業約款を自社の旅行業約款として設定した場合には、観光庁の認可を受けたこととする取扱いも行われています(旅行業法第12条の3)。

つまり、旅行会社が旅行業約款について負っている義務は以下のとおりとなります。

①旅行業約款を定めること
②定めた旅行業約款の認可を受けること
③旅行業約款の変更時にも認可を受けること
④認可を受けた約款を営業所に掲示するか、備置くこと

旅行業約款の掲示や備置きは、実際にお客様が来店する店舗型を想定した既定となっています。
実店舗を持たないOTA、オンライン旅行会社の場合には、旅行業約款を自社のWebサイトの訪問者が認識しやすい場所に、PDF等のリンクを設置する必要があります。

義務に違反した場合の取扱い

旅行業約款に関する法律上の義務があるにもかかわらず、旅行業約款の認可を受けなかったり、認可を受けた旅行業約款を営業所に掲示または備置きしなかった場合には、旅行業法違反ということで30万円以下の罰金の対象となります(旅行業法第79条)。

仮に罰金刑の対象となり罰金を支払うことになった場合、旅行業の登録拒否事由(旅行業法第6条第1項第2号)に該当することになり、登録拒否事由に該当することになると、観光庁長官は旅行業の登録を取消すことが可能となります(旅行業法第19条第1項第2号)。

登録が取り消されると、旅行業者の登録簿から登録を抹消されることになります。
旅行業の登録を取消されると、以降5年間は再度の旅行業登録を受けることができなくなります(旅行業法第6条第1項第1号)。

また、仮に罰金刑の対象とならなかった場合でも、旅行業法違反の状態には変わらないため、業務改善命令・業務停止命令・登録取消処分の対象となります(旅行業法第18条の3、第19条)。
業務改善命令・停止命令に従わない場合は、旅行業法に基づく処分に違反したということで、やはり登録取消処分の対象となります。

したがって、旅行業約款に関する義務違反は、最終的には旅行業の登録を取り消される理由にもつながります。

実際には、このような不利益処分の基準が定められており、旅行業約款の認可を受けていない、あるいは営業所への非掲示の場合にすぐに登録取消処分となることはありません。
しかし、不利益処分の基準が変更になれば下記のパターン3のような対応方法も法律上は可能なため、まずは違反状態にならない取り組みが必要です。

旅行業約款に違反するとこうなる

旅行業約款制度のまとめ

  • 旅行会社は旅行業約款を作成して認可を受けて、営業所やWebサイトに掲示や備置きをする必要がある
  • これらの義務に違反すると、さいあくの場合旅行業の登録を取消されることもある
  • 特定の契約類型によっては、個別の認可を受けることも可能

旅行業に関するお手続・事業の運営で、気になっていることはございませんか?

旅行業約款の作成・認可・掲示・備置きは、法律で定められた、旅行会社の義務となっています。
標準旅行業約款を使っている場合は作成・認可が不要となりますが、内容を変更をしたい場合には認可を受ける必要があります。
また、OTAでは店舗型旅行会社を想定した既定をインターネット上に反映させていく作業も必要となります。

行政書士TLA観光法務オフィスでは、旅行業約款の内容変更に加えて、Webサイト構築時のオペレーションについてもサポートをすることが可能です。
約款の内容見直しや、旅行会社さまのWebサイトの構築などで気になることがございましたら、ぜひ一度下記お問い合わせフォームよりご意見をお聞かせいただければと思います。

あなたからのご連絡をお待ちしております。

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