人の移動が制限された世界では、これまでの観光旅行というものは、そのままでは成立しえないものとなってしまいます。
例えば自然災害や戦乱、感染症の流行等、観光を脅かす要因は様々です。
通信技術が発展する以前であれば、観光は現地に行かなければいけないものという認識が当たり前でした。
しかし、通信技術が発展し、回線速度も上がってきた昨今では、その常識を覆す、オンライン上での旅行というものも行われるようになってきました。
オンラインツアーやバーチャル旅行を行うために旅行業登録が必要なのか、というご相談をいただくので、周辺の法律上の手続を含めて解説をします。
- オンラインツアーに旅行業登録が必要かどうか
- オンラインツアーを実施する上で、注意が必要なその他の手続について
オンラインツアーとは何か
大前提として、オンラインツアーやバーチャル旅行について、法律上の定義は存在しません。
何とか法の何条にオンラインツアーとは…のようなことは書かれていません。
2020年の初頭から世界的に流行している新型コロナウイルス感染症の影響で、「旅行は現地で体験するもの」という固定観念はいい意味で崩れてきたように思います。
既存の旅行会社だけではなく、他業種からもオンラインツアービジネスに参入してくるようになりました。
その実現方法は各社様々で、例えばオンラインによる生配信を行って、よりリアルタイム性を重視するものや、VR技術を使うものなどがあります。
オンラインツアーとは、従来型の現地体験の旅行とは異なり、ユーザーが自宅等の好きな場所にいながら、オンラインで参加できる旅行のことと言えます。
観光地から配信される映像を楽しんだり、通常のツアーでは立入ることができない場所の様子を見ることができたりすることが可能です。
また、気軽にオフラインの旅行に参加することがまだまだ難しい、身体的な障害を持っている方や高齢者でも、様々なコンテンツに参加できることは、オンラインツアーの特徴と言えるかもしれません。。
旅行業の定義を確認
旅行業とは何かという疑問については、旅行業法という法律にその答えが書かれています。
旅行業法では、旅行業を、
①報酬を得て
②一定の行為を行う
③事業
であるとしています。
一定の行為のことを旅行業務と言い、旅行業務は大きく分けると以下の3つに区分することができます。
Ⓐ基本的旅行業務
Ⓑ付随的旅行業務
Ⓒ旅行相談
基本的旅行業務
基本的旅行業務とは、旅行者が宿泊施設や運送機関等のサービスを受けられるように事前に契約を結んだり、契約が成立するようにサポートをすることを指します。
もう少しかみ砕くと、ホテルや飛行機等の旅行に関するサービスの手配をすることが、当てはまります。
旅行者のために手配をして旅行代金を受け取ることだけでなく、宿や運送機関のために旅行者を紹介して、これらの事業者からキックバックを受け取ることも含まれます。
旅行業法では、このような基本的旅行業務を行うときには、旅行業登録が必要としています。
付随的旅行業務
付随的旅行業務とは、基本的旅行業務に付随して行われる旅行業務のことです。
言い換えると、宿泊施設や運送機関以外の旅行に関連するサービスを手配することです。
もっと具体的に言えば、レストランや美術館、博物館、テーマパーク、土産物店といった施設の手配をすることです。
このような旅行関連サービスの手配だけをする場合は、旅行業登録は必要ありません。
また、旅行者の便宜となるようなサービス、例えばパスポートの発行申請を代理でするようなものについても、この付随的旅行業務に含まれます。
旅行相談
もう一つ、旅行相談という類型があります。
旅行相談については、標準旅行業約款という旅行業界共通の契約書のひな形で、その内容について以下のように定義されています。
①旅行者が旅行の計画を作成するために必要な助言
②旅行の計画の作成
③旅行に必要な経費の見積もり
④旅行地及び運送・宿泊機関等に関する情報提供
⑤その他旅行に必要な助言及び情報提供
これらの内容を報酬を受け取って行うことを旅行相談といいます。
旅行相談をする場合には、旅行業の登録が必要です。
オンラインツアーを始めるために旅行業登録は不要
ここまで、オンラインツアーの定義と旅行業登録が必要なケースについて見てきました。
オンラインツアーが、遠隔地にいる参加者に対して映像配信やVRでコンテンツを配信するものということであれば、旅行業登録は不要です。
そこには宿泊施設や運送機関の手配が発生しないからです。
旅行業登録は不要だけど、関連する手続には要注意
オンラインツアーそのものに旅行業登録は不要ですが、ビジネスモデルによってはその他の手続が必要になることがあります。
この記事では具体的に、以下の4つのケースについて検討をしていきます。
①オンラインツアー参加者同士でチャット等のメッセージ交換ができる場合
②ツアーのお供にお酒を販売する場合
③後日使用できる商品券を配る場合
④オフラインツアーを企画実施する場合
参加者同士でメッセージ交換ができる場合
電気通信事業法では、電気通信設備を使って他人の通信を媒介して、電気通信設備を他人の通信の用に供することを電気通信役務といい、電気通信役務を他人の需要に応ずるために提供する事業を電気通信事業と定義しています。
法律用語なのでもってまわった言い方をしていますが、簡単に言うと、他人同士(オンラインツアーの参加者同士)の通信(メッセージ交換)を手助けする仕組みを用意して、事業として展開する場合には電気通信事業者に該当し、届出が必要となります(電気通信事業法第16条、第9条、電気通信事業法施行規則第3条)。
オンラインツアーではZoom等のWeb会議ツールを使うことが多いかと思いますが、これらのツールには標準でチャット機能が備わっており。このチャット機能を使うことで参加者同士のメッセージ交換をすることができるようになるため、他人の通信を媒介することになり、電気通信事業の届出が必要になるということです。
ツアーのお供にお酒等の物販をする場合
ある観光地が主催するオンラインツアーに参加してもらうにあたって、その観光地の地酒や地ワイン、地ビールを事前に販売して、参加者に購入してもらうような場合には、酒類販売業の免許が必要になります。
ECサイトや、メール、電話、FAX等でのツアー申込になることが一般的ですので、通信販売用の酒類販売免許を取得する必要があります。
お酒の製造事業者から直接オンラインツアー参加者にお酒を発送する場合には、酒類販売の媒介業免許が必要になることもあるので、事前に税務署で相談するか、お酒の販売免許手続のサポートをしている行政書士に相談していただくのが良いでしょう。
また、肉などの食品を販売する場合には食品衛生法上の許可が必要になることもあるので、このようなときには保健所に相談をするようにしてください。
後日使用できる商品券を配る場合
オンラインツアーの参加者に後日来訪してもらうことを促すために、宿泊代金やお土産等の料金が割引になる、商品券や旅行券を配る場合にも注意が必要です。
その商品券の使用期限が無期限or7か月以上先まで使えるもので、
①商品券の発行者以外のお店でも使える
②商品券の発行者自身のお店でしか使えないが、残高が1000万円を超える枚数を発行している
場合には、財務局への登録や届出が必要になります。
資金決済法上の前払式支払手段で、①を第三者型発行、②を自家型発行といいます。
オフラインツアーを企画実施する場合
オフラインツアー、いわゆるリアルの旅行の企画を実施する場合、その方法によっては旅行業登録が必要です。
既に説明した通り、宿泊施設や運送機関の手配を伴う場合には旅行業登録が必要です。
観光地に来てもらうために貸切バスの手配や飛行機のチケット発券、そして宿の提供まで行うのであれば、旅行業登録をするか、既に旅行業登録をしている旅行会社の協力を得て、実施しましょう。
現地集合現地解散の日帰り・街歩きツアーを企画実施する場合には、旅行業登録は不要です。
- 宿泊施設や運送機関の手配が無ければ旅行業登録は不要
- チャット機能が使えるオンラインツアーは電気通信事業の届出が必要
- 物販の品目によっては許可や免許が必要なので注意
- 商品券の発行は有効期限や利用可能施設、発行金額に注意
オンラインツアーは、それまで気軽に旅行を楽しむことができなかった層へアプローチできたり、普段は見学することのできない場所を見ることができたりと、旅行業の新しい可能性を秘めた旅行ジャンルであるといえるでしょう。
基本的には許認可は必要ないものの、そのビジネスモデルによっては関連する許認可が発生することもあります。
行政書士TLA観光法務オフィスでは、そのような手続が発生した際の手続サポートはもちろん、ビジネスモデルの検討などについてもお役に立つことが可能です。
もしオンラインツアーの実施などで気になることがございましたら、下記お問い合わせフォームよりご相談くださいませ。
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