旅行業登録の手続を専門に扱っていると、色々なご相談をいただきます。
真正面から旅行会社を作りたい、というご相談も当然あります。
一方で、こんなビジネスを考えているけど、これは旅行業の登録が必要なのだろうか、というご相談も多くいただきます。
今回はそうしたご相談の中でも学習塾・予備校ビジネスに関するものについて解説いたします。
なお、本記事の解説内容は個人的な解釈等を示したものであり、行政当局の解釈と必ずしも一致しないことがありますので、その点ご了承くださいませ。
塾や予備校が合宿をするのに旅行業登録が必要なのか
事例としては、以下のとおりです。
塾(予備校)を経営しており、その生徒を対象に、夏休み期間中を利用して3泊4日の夏期講習合宿を企画しています。
宿泊施設の選定や、施設に移動するための貸切バスはこちらで手配します。
参加費には宿泊代、貸切バスの費用が含まれていて、参加するかは任意です。
合宿の企画は今年が初めての試みで、来年以降も実施するかは現時点では未定です。
このような場合、旅行業の登録が必要になるのでしょうか?
旅行業登録が必要な事業のおさらい
旅行業登録の必要性を判断する前に、まずはどんなときに旅行業登録が必要なのかを、おさらいします。
旅行業法では、報酬を得て、旅行業務を行う事業をする場合には旅行業としての登録が必要だとしています。
報酬
ここでいう報酬とは、ある行為を行うことで経済的収入を得ているかどうかが判断基準になります。
提供するサービスと、対価として受け取る収入の間に直接的な関係が無くても、相当の関係があれば、旅行業法上の報酬を受け取っていると判断されます。
例えば、旅行申込みをした人から受け取る旅行代金だけでなく、ホテルや旅館に送客した見返りにこれらの宿泊施設からキックバックを受け取るような場合。
あるいは、留学あっせんをしている事業者がその留学あっせんサービスと運送や宿泊手配サービスの費用を包括的に徴収し、旅行業以外のサービスに関する費用を支払っていたとしても、留学あっせんと不可分一体なものとして運送・宿泊手配をしているような場合が「相当の関係がある」に該当することになります。
旅行業務
旅行業法で定義されている旅行業務について、かなり掻い摘んで説明すると以下のとおりとなります。
①旅行者を募集するためまたは旅行者から依頼を受けて、運送・宿泊サービスの手配をする
②①に付随して、運送・宿泊以外の旅行サービスを手配する
③旅券の発給のための手続代行
④旅行相談に応じること
簡単に説明すると、運送手段や宿泊施設の手配を行うと、旅行業務に該当する可能性が高くなります。
事業
事業性があるかどうかについては、以下の基準を、個別の事案ごとに総合的に判断していくことになります。
①営利性
②募集の不特定多数性
③反復継続性
営利性
営利性については、事業の構造的に利益が出ない仕組みになっていれば、営利性が無いとして判断される可能性があります。
例えば、ガイド業務を行っている人が旅行者の依頼を受けてホテルを手配する場合で、ホテルの手配は実費、それとは別にガイド報酬を受け取るとしても、ガイド報酬がホテルの手配有無に関係なく同じ金額であれば、ホテルの手配を行うことで収益を上げているものではないので、営利性が無いと判断される可能性があります。
前述した「相当の関係」についても、ガイドの依頼者以外の人のためにも実費でホテル手配を行うということであれば、ガイド行為とホテルの手配の間には関係が無いと考えることができるので、この点は問題にならないでしょう。
募集の不特定多数性
旅行業務の提供を受ける旅行者の募集範囲をどのように設定すると、不特定多数性が認められるのか、という論点です。
明確な線引きはありませんが、過去の事例として、ある自治体(A市)が市内の小学生を対象として行ったサマーキャンプには募集の不特定多数性はないとされた事例があります。
一方で、ある事業者が全国の小学生を対象として実施しようとした中学受験合宿は募集の不特定多数性が認められたという事例もあります。
反復継続性
反復継続性は、継続の意思をもって行為が行われるかどうかが判断基準となります。
こちらも明確な線引きが有るわけではないですが、
①旅行の手配を行う趣旨の宣伝や広告が日常的に行われている場合
②店舗を構えて旅行業務を行う旨の看板を掲示している場合
には、反復継続性があると認められます。
一方で、ある自治体(B市)が市内の独身男女を対象として行った婚活ツアーが、年に1度の開催だったので、日常的に反復継続して実施しているとまでは言えないとした事例もあります。
今回の事例への当てはめ
旅行業の該当性についておさらいしたところで、今回の事例に当てはめてみたいと思います。
ポイントは、
①報酬を得ているか
②旅行業務か
③営利性があるか
④募集の不特定多数性があるか
⑤反復継続性があるか
でした。
事例の要旨は、
・事業主体は塾
・募集対象は生徒
・事業内容は3泊4日の夏期講習合宿で、宿泊施設と貸切バスを予備校が手配
・生徒から参加費を徴収し、その中には宿泊代と貸切バス代が含まれている
・任意参加
・合宿の企画は初めてで、来年以降の実施予定は未定
というものでした。
報酬
今回は、予備校が宿泊代と貸切バス代の対価として参加費を生徒から徴収しています。
したがって、報酬=経済的収入がある、と考えられます。
旅行業務該当性
前述のとおり、塾が主体となって、生徒を募集するために運送・宿泊サービスの手配等を行っているため、旅行業務に該当します。
営利性の当てはめ
今回の事例だけではすぐに営利性の判断をすることは難しいです。
しかし、一般的に、塾がその事業の中心である夏期講習合宿を実施するにあたって、利益の出ない事業構造とするはずがないので、おそらくは営利性もあると判断されることになるでしょう。
募集の不特定多数性の当てはめ
不特定多数性についても、画一的な判断は難しいでしょう。
例えば、個人経営の塾で教室は1か所、生徒数も全体で数十人程度で日ごろから全員が顔見知りであるという場合には、もしかしたら不特定多数性は否定されるかもしれません。
一方で、この塾が多教室展開している塾で、全教室の生徒に対して合宿参加者の募集をしている場合は、不特定多数に対して募集を行っていると判断されることになるでしょう。
反復継続性の当てはめ
反復継続性についても、判断は難しいところです。
これが年に1度程度の開催だと、反復継続性はないと言えるかもしれません。
しかし、冬休みや春休みにも合宿を実施するとか、あるいは生徒や保護者からの依頼を受けて、オーダーメイドで合宿を企画する等の宣伝や広告をしていた場合には、反復継続性があると判断されるでしょう。
まとめ
旅行業の登録が必要になるかどうかについては、これまで解説してきた内容を踏まえて、個別の事例ごとに総合的に判断されることになります。
価格設定や事業全体のビジネスモデルまで踏まえて判断することになります。
今回の事例のように、一見すると旅行業とは全く関係ないように見える塾・予備校の合宿であっても、旅行業法の規制対象になることもあり得ます。
旅行業の登録が必要なビジネスモデルの場合、自社で旅行業登録をするか、外部の旅行会社と提携して適法に事業を遂行しなければなりません。
旅行業の登録が必要かどうかについては、行政庁に確認する必要があります。
もし、自社で旅行業登録の手続が必要になった場合、ぜひ一度専門家に相談してみてください。
行政書士TLA観光法務オフィスは旅行業登録手続を専門に扱っている事務所ですので、きっとあなたのお役に立てることと思います。
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