第1種旅行業、第2種旅行業、第3種旅行業、地域限定旅行業、旅行業者代理業、旅行サービス手配業の登録を受けて事業を行っているが、諸事情により登録を廃止したい。
旅行事業から撤退したい。
そのような場合には、事業を廃止した日から30日以内に観光庁や都道府県といった各登録行政庁に対して、事業廃止届出書を提出することが必要です。
この記事では、旅行事業の廃止手続、撤退手続について全体の流れと、具体的にどんな作業が必要なのかを丁寧に解説いたします
- 旅行会社を経営していたが、事業を畳むことにした方
- 旅行事業を、会社分割や事業譲渡で他社に譲るることにした方
- 会社合併で新しい会社を立ち上げる方
旅行事業の廃止手続が必要な場面
旅行事業を廃止する場合、その対応方法としてさまざまなパターンが想定できます。
具体的には、以下の4つのどれかに当てはまる場合には、旅行業の廃止手続が必要です(旅行業法第15条、第35条)。
①旅行事業を廃止したとき
②旅行事業を他社に分割・売却・譲渡したとき
③会社の合併で、旅行業登録を受けた会社が消滅したとき
④個人で旅行業登録を受けた方が死亡したとき
①や②のケースで旅行事業を廃止した場合には、旅行業を廃止した会社(個人の場合は、その個人)が、廃止・分割・売却・譲渡をした日から30日以内に、事業を廃止等した旨を届け出る必要があります。
③のケースで、会社合併により旅行業登録を受けた会社が消滅した場合には、消滅会社の役員だった人が、会社の消滅した日から30日以内に、責任をもって事業廃止の手続をしなければなりません。
また、④のケースで、個人で旅行業登録を受けた方が亡くなってしまった場合には、その亡くなった方(被相続人)の相続人が、被相続人が亡くなったことを知った日から30日以内に、旅行業廃止の手続を行う必要があります。
これらの旅行事業の廃止手続は、第1種旅行業の場合は観光庁長官あてに、それ以外の第2種旅行業、第3種旅行業、地域限定旅行業、旅行業者代理業、旅行サービス手配業の場合は登録を受けた都道府県知事あてに、それぞれすることが必要です。
事業廃止の手続をしない場合は、20万円以下の過料(行政が徴収する罰金のこと)を徴収される可能性があります(旅行業法第83条第2号)。
万が一③や④の手続を行わなかった場合、観光庁長官や都道府県知事がこれらの事実が発生していると認めた場合には登録の抹消をすることができます(旅行業法第20条第2項、第38条第2項)。
また、①や②を含めて、旅行業法で定められている廃業の届出をしなければならないという義務に違反していることになるので、旅行業登録の取消事由にも該当します(旅行業法第19条第1項第1号、第37条第1項第1号)。
さらに、第1種旅行業、第2種旅行業、第3種旅行業、地域限定旅行業は有効期間があるので、期間満了までに更新登録手続をしなければ自動的に登録は抹消されます(旅行業法第20条第1項)。
ただ、旅行業者代理業や旅行サービス手配業には有効期間はありませんし、観光庁長官や都道府県知事が、いち個人が亡くなったこと、あるいはいち企業が合併して消滅したことを知るということはまず考えられないため、これらの事由が発生した場合には、旅行業違反にならないように、きちんと事業廃止届出書を提出することが重要です。
なお旅行業、旅行業者代理業、旅行サービス手配業の登録を取消されてしまった場合、取消しの日から5年を経過していない間は再び旅行業等の登録を受けることができないという、登録拒否事由に該当してしまうため(旅行業法第6条、第26条)、法律で定められた手続はきちんと行うようにしましょう。
事業廃止の手続方法(担当窓口)
第1種旅行業の場合
第1種旅行業の場合は、監督官庁は観光庁です。
ただし、観光庁に直接書類を提出するのではなく、主たる営業所を管轄する地方運輸局の旅行業担当窓口に提出することになります。
東京都に主たる営業所がある第1種旅行業者の場合、関東運輸局が担当窓口です。
その他の登録種別の場合
第1種旅行業以外の登録種別や旅行業者代理業、旅行サービス手配業の場合には、監督官庁は都道府県です。
主たる営業所を管轄する都道府県の旅行業担当窓口に提出することになります。
東京都に主たる営業所がある第2種・第3種・地域限定旅行業者や旅行業者代理業者、旅行サービス手配業者の場合、東京都庁が担当窓口です。
営業保証金/弁済業務保証金分担金の取戻し
旅行業の廃止をすることで、営業保証金や弁済業務保証金分担金を取戻すことが出来ます。
旅行者(消費者)保護の観点から、複雑な手続となっており、保証金等を取戻すまでに一定期間がかかります。
旅行業協会に加入している場合と加入していない場合で、手続が異なるのでそれぞれ解説していきます。
旅行業協会に加入している場合
ANTAやJATAに加入している旅行会社は、弁済業務保証金分担金を旅行業協会に納めています。
旅行業協会は、協会に加入している各旅行会社から集めた弁済業務保証金分担金に対応する営業保証金を、旅行会社に代わって法務局へ供託しています。
したがって、旅行会社が旅行業協会に加入している場合は、旅行業協会が法務局に対する営業保証金の取戻しに関する各種手続きを行うため、旅行会社として行う手続は以下のとおりです。
①旅行会社の主たる営業所を管轄する登録行政庁に対して、事業廃止届出書を提出する。
②登録行政庁から、登録抹消通知書を受け取る。
③登録抹消通知書を、加入している旅行業協会に提出する。
④旅行業協会から資格喪失届と弁済業務保証金分担金返還請求書を受け取る。
⑤④で受け取った書類を、加入している旅行業協会に提出する。
⑥③の登録抹消通知書の提出から8か月程度の期間を経て、弁済業務保証金分担金が返還される。
実務的には、上記③で登録抹消通知を旅行業協会に提出した後、旅行業協会が官報公告手続等を行い、6ヶ月経過した後に弁済業務保証金分担金の返還手続に進みます。
旅行業協会に加入していない場合
旅行業協会に加入していない旅行会社は、供託所(法務局)へ営業保証金を直接供託しています。
ですので、旅行業協会に加入している旅行会社と比べて、自社で行うべき手続が増え、その内容も複雑になります。
具体的には下記のとおりです。
①旅行会社の主たる営業所を管轄する登録行政庁に対して、事業廃止届出書を提出する。
②登録行政庁から、登録抹消通知書を受け取る。
③官報への公告掲載を取り次ぐ官報販売所を経由して、官報への掲載依頼をする。
④官報掲載後に、登録行政庁に対して営業保証金取戻公告済届出書と官報掲載紙のコピーを提出する。
⑤官報掲載から6か月経過後に、登録行政庁に対して証明書交付申請書と官報掲載紙の原本、供託書のコピーを提出する。
⑥登録行政庁から証明書を受け取る。
⑦供託所(法務局)で、営業保証金の払渡請求(取戻しの請求)を行い、営業保証金の返還を受ける。
官報への公告掲載
官報への公告掲載は、官報への公告掲載を取り次ぐ官報販売所に依頼するところから始まります。
官報の掲載依頼をする際には、旅行業の営業保証金取戻公告用の原稿雛形があるので、そちらを使います。
ご参考までに、公告しなければならない事項は下記のとおりです。
申出書とは、ツアー等の申込みをして旅行会社に対して債権を持っている旅行者が、6ヶ月を下回らない一定の期間内(各旅行会社が定めます。)に提出をする、債権の金額と発生原因である事実、氏名・名称・住所を記載した書面のことです。
手続を進めるうえで公告が掲載された官報の原本が必要になるので、掲載後は必ず手元に残して置くようにしてください。
また、公告内容に誤りがある場合、訂正や再公告をする必要があります。
軽微な誤りであれば訂正公告のみで対応可能ですが、重大な誤りの場合は一度取消公告をした後、再度正しい内容で公告する必要があります。
公告回数が増えればその分費用もかかりますので、十分お気を付けください。
旅行者の保護
旅行業法という法律は、消費者保護の観点が取り込まれています。
ここでいう消費者とは、もちろん旅行者のことです。
官報に公告を掲載してから6ヶ月経過した後でないと営業保証金の取戻しが出来ないとしているのは、消費者の権利を手厚く守ろうという発想に基づいています。
旅行業協会に加入している場合は、官報掲載の手続は協会が代わりに行ってくれますが、6ヶ月という期間は変わりません。
また、仮に登録だけしていて、実際に営業はしていないような場合であっても、官報への公告は省略できません。
- 手続は事業の廃止から30日以内に行う
- 手続窓口は登録種別によって異なる
- 旅行業協会に加入しているか未加入かで手続が異なる
- 官報掲載後、最低でも6ヶ月間は保証金の取戻しが出来ない
行政書士TLA観光法務オフィスでは、旅行事業から撤退される旅行会社さまの事業廃止サポートを行っております。
事業を廃止して撤退するという判断は、経営戦略上必要なことでもあり、許認可事業である以上は意思をする場合に一定の手続を踏んでいくことは、避けて通ることはできません。
この記事を読まれて、廃業するのも大変だ、サポートを受けたい、と感じられましたら、下記お問い合わせフォームからご連絡いただければ幸いです。
当事務所で旅行事業の廃止手続をサポートさせていただく場合、以下の報酬が参考価格となっております。
あなたからのご連絡を、お待ちしております。
手続 | 報酬額(税込) | 備考 |
---|---|---|
旅行業協会に加入している場合 | 3万3000円 | 官報掲載手数料等の実費別 |
旅行業協会に加入していない場合 | 5万5000円 | 官報掲載手数料等の実費別 |