旅行業

【事例解説】旅行会社の事業承継ー吸収分割による事業承継

旅行業に関するニュースで、下記記事のようなものがありました。

航空会社大手であるANAグループの組織再編です。
この組織再編の中で、ANAグループのうち旅行事業を手掛けるANAセールス株式会社(現ANAあきんど株式会社)を会社分割して、旅行事業を別のグループ会社に承継させる、という内容が含まれています。

承継先の会社はANA X株式会社で、承継先会社のウェブサイトにもその旨、電子公告にて公表されていました。
※現在は電子公告ページは削除されています。

今回はこの事例を参考に、旅行会社の事業承継について解説いたします。
会社合併による事業承継は、以下の記事をご参照ください。

【事例解説】M&Aや事業承継をして旅行業を継続する方法先日、日経新聞の電子版にこんな記事が出ていました。 ヤマハ、旅行業の子会社を合併 経営を効率化 日本初の、世界最大総合楽器メ...
この記事を読んで分かること

会社分割による旅行業の事業承継方法

吸収分割手続のおおまかな流れ

吸収分割時の注意点

会社分割とは

会社分割とは、組織再編行為の1つで、その根拠は会社法という法律にあります。

組織再編行為は、大きく分けると
①合併
②分割
③株式交換
④株式移転
の4つが、会社法上定められています。

新設分割と吸収分割

組織再編行為のうち、分割については会社法上、
①吸収分割
②新設分割
の2つが定められています。

以下、それぞれの違いについて簡単に解説します。

吸収分割

吸収分割は、

株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部分割後他の会社に承継させることをいう。

とあります。
既存の会社に、事業の全部または一部を分割して引き継がせることが吸収分割です。

新設分割

新設分割は、

一又は二以上の株式会社又は合同会社が、その事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させることをいう。

とあります。
新しく会社を設立して、その会社に事業の全部又は一部を分割して引き継がせることが新設分割です。

会社分割と事業譲渡との違い

会社分割(特に吸収分割)と事業譲渡は、そのスキームが非常に似ています。
しかし、これらは似て非なる制度となっています。

会社分割

①法的性質

会社分割は、会社法上定められた事業再編行為です。

②権利義務等の承継

分割する際に、分割する事業の含まれる権利義務関係包括的に分割先へ引き継がれます。
例えば、分割事業に関連する契約があればその契約は引き継がれます。
ただし、契約にCOC条項(チェンジオブコントロール)が入っている場合、契約当事者の一方の経営権に変更があるともう一方からの契約解除権が発生することもあるため、事業実施をする上で重要な契約であるようなときには、事前に分割によって経営主体が変わる旨や分割後も契約を継続したい旨を、相手方と協議する必要があります。

分割事業に関する雇用契約については、後述します。

③債権者保護手続

会社分割を実施するためには、債権者保護手続を経る必要があります。
具体的には、分割を実施するよりも前に官報に掲載する等の定款で定める手段により公告をする必要があります。

一方で、債権者の事前承諾は不要です。

④簿外債務対応

会社分割は債権債務を包括的に承継するため、帳簿に記載のない債務、いわゆる簿外債務があった場合に承継先はその簿外債務をも承継するというリスクを背負う可能性があります。

回避策としては、徹底したデューデリジェンスの実施や、会社分割実施をする際の契約書等に簿外債務が無いこと等の表明保証条項を入れ込んでいく、ということになっていきます。

⑤労働契約関係

会社分割によって従業員との労働契約も自動的に包括承継されるため、個別の同意を得る必要はありません。
しかし、労働者に対して与える影響が大きいため、会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(通称:労働契約承継法)という法律で一定の手続を踏むことが求められています。

事業譲渡

①法的性質

事業譲渡は、譲渡元と譲渡先の間で行われる売買契約です、。

②権利義務等の承継

事業譲渡の場合、権利義務関係は包括承継されません。
したがって、事業に関連する契約がある場合は、すべての契約を個別で締結し直す必要があります。

③債権者保護手続

事業譲渡では、会社分割時のような公告による債権者保護手続は不要です

一方で、全ての債権者から個別に事前承諾を得る必要があります

④簿外債務対応

事業譲渡は、権利義務を包括承継しないため、譲渡後に簿外債務が判明した場合であっても、自動的にはその簿外債務を引き継ぐ必要はありません

⑤労働契約関係

事業譲渡では、従業員から個別に同意を得た上で、分割先会社との間で新たに労働契約を結び直す必要があります。

会社分割(吸収分割)を利用した旅行会社の事業承継

事業承継の方法

今回の事業承継事例は、会社分割の中でも吸収分割のスキームを利用しています。
吸収分割により、分割元会社の旅行事業に関する権利義務を、分割先会社に承継する、となっております。

以下に、分割先会社のウェブサイトにて電子公告されていた内容の要旨を記載しておきます。
※現在は分割先会社のウェブサイトからは削除済み

分割先会社(以下「甲」)は吸収分割により分割元会社(以下乙)の旅行事業に関する権利義務を承継する。
効力発生日は令和●年●月●日であり、甲及び乙の株主総会の承認決議は令和◆年◆月◆日に終了している。

旅行会社を事業承継する際の留意点

旅行業の登録は、分割や合併などでは登録番号を引き継ぐことができないため、承継先の会社が旅行業登録を受けていない場合は、まず新規の旅行業登録を受ける必要があります

今回の事例のように、既に旅行業として営業を行っていて、取引をしているお客様もいるような場合には、事業承継をすることで旅行業登録を受けていない期間が発生しないように、十分段取りを組んでから進める必要があります。

また、何か特別な理由が無い限りは、承継元会社が登録を受けていた登録種別と同じ種別で、承継先会社についても旅行業登録を受けておきましょう。
仮に第1種旅行業登録を受けているけれども海外募集型企画旅行は現在実施していないし今後も実施する予定が無い、ということであれば、承継先会社は第2種旅行業登録等の営業実態に合わせた登録種別で登録を受けても問題ありません。

旅行事業の承継に必要な手続

旅行会社の事業承継を会社分割で実施する際の手続の大まかな流れは以下のとおりです。

  1. 分割先会社での旅行業新規登録手続
  2. 吸収分割契約の作成
  3. 事前の開示
  4. 株主総会での吸収分割契約の承認
  5. 労働者への通知
  6. 反対株主等への通知
  7. 債権者保護手続
  8. 効力の発生(登記申請)
  9. 事後の開示

分割先会社での旅行業新規登録手続

事業承継後、スムーズに旅行業に関する業務を引き継ぐ場合には、事前に分割承継会社で旅行業登録をしておく必要があります。
登録を希望する種別ごとに必要な登録要件を満たしているか確認した上で、進めていく必要があります。

万が一、登録要件を満たしておらず、リカバリーもできない場合には新設分割などの方策も検討する必要があります。

吸収分割契約の作成

吸収分割をする場合、会社法で規定された一定事項について、吸収分割契約の中で定める必要があります。
分割承継会社が株式会社か、合同会社等の持分会社かによって定める事項が異なるため、注意が必要です。
cf.会社法第757条、758条、760条

事前の開示

分割元会社、分割先会社の両方で、吸収分割契約その他会社法施行規則で定める事項を記載した書類や電磁的記録をその本店に備置く必要があります。
書類等の備置きは、吸収合併契約等備置開始日から吸収分割の効力発生日後6か月を経過する日までの間となっています。
吸収合併契約等備置開始日はいくつかのパターンがあるのですが、ここでは、吸収分割について株主総会の承認を受ける必要があるとき、その株主総会の日の2週間前の日、としておきます。

株主や債権者は書類の閲覧請求や謄本・抄本の交付請求をすることができます。
cf.会社法第782条、794条

株主総会での吸収分割契約の承認

分割元会社、分割先会社の両方で、吸収分割の効力発生日の前日までに株主総会を開いて、特別決議による吸収分割契約の承認を受ける必要があります。
cf.会社法第783条、795条

労働者への通知

労働契約承継法の規定に基づいて、分割元会社が一定の事項を労働者に対して通知期限日までに通知する必要があります。
通知期限日は、吸収分割契約に株主総会の承認が必要な場合は、その株主総会が開かれる日の2週間前の日の前日とされています。

株主等への通知

吸収分割に反対する分割元会社の株主や、新株予約権を持つ人は、公正な価格で株式や新株予約権の買取を分割元会社に対して請求することが可能です。
その請求権の実現を担保するために、分割元会社は、効力発生日の20日前までに、株主や新株予約権者に対して、①吸収分割をする旨、②分割先の商号及び住所を通知する必要があります。
cf.会社法第785条、787条

また、分割先会社の反対株主についても、吸収分割に反対する場合は自己の所有する株式を公正な価格で分割先会社に対して買い取るよう請求することが可能です。
同じく、分割先会社は、効力発生日の20日前までに、株主に対して、①吸収分割をする旨、②分割元の商号及び住所を通知する必要があります。
cf.会社法第797条

債権者保護手続

分割元会社や分割先会社の債権者は、それぞれの債権を有する会社に対して吸収分割に対して異議を述べる権利があります。
そこで、分割元会社や分割先会社は、それぞれの債権者に対して一定事項の官報公告や個別に催告をする必要があります。

公告・催告すべき事項は
①吸収分割をする旨
②分割元会社が公告する場合は分割先会社の商号及び住所
※分割先会社が公告する場合は分割元会社の商号及び住所
③分割元会社と分割先会社の計算書類に関する事項
④債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨
の4点です。
異議を述べることができる期間は最低でも1か月間確保しなければならないため、公告・催告は吸収分割の効力発生日の前日から1か月前にはしなければなりません。

定款に定めがある場合は、官報公告に加えて日刊新聞紙への公告か電子公告をすることで、個別の催告を省略することができます。
cf.会社法第789条、799条

効力発生と登記申請

吸収分割は、吸収分割契約で定めた日にその効力が発生します。
効力が発生したら、効力が発生した日から2週間以内に、分割元会社と分割先会社がそれぞれ吸収分割に関する登記申請をする必要があります。
cf.会社法第759条、923条

事後の開示

分割元会社と分割先会社は、効力発生日から6か月の間、会社法施行規則で定める事項を記載した書面を作成して、その本店に備置く必要があります。
各会社の株主や利害関係人は、備置かれた書面の閲覧請求や謄本・抄本の交付請求をすることができます。
cf.会社法第791条、801条

吸収分割後に旅行業登録をする場合

通常、継続事業を承継する場合には実務への影響を考慮して、承継会社側で、分割会社と同じ許認可を取得しておき、営業が途切れないようにするのが一般的です。
しかし、何らかの理由で吸収分割前には同一許認可を取得できない場合、吸収分割後に承継会社で許認可要件を満たしていることを確認し、許認可取得を行います。

旅行業登録においては、吸収分割後に登録を受ける場合であっても通常の手続と同じ手順を踏んで手続を進める必要があります。
しかし1点だけ、吸収分割会社が供託所に供託していた営業保証金については、特別の規定が存在します。

具体的には、
①吸収分割により吸収分割会社が旅行業登録の抹消をした
②抹消後、分割承継会社が6か月以内に旅行業登録を受けた
③吸収分割会社が供託した営業保証金について分割承継会社に承継した旨の届出をした
ときには、吸収分割会社が供託した営業保証金は、分割承継会社が供託をした営業保証金とみなされます。

旅行業法第16条(営業保証金についての権利の承継等)
① (略)旅行業者たる法人が合併により消滅し、若しくは分割によりその事業の全部を承継させ、又は旅行業者がその事業の全部を譲渡したため、第20条の規定による登録の抹消があった場合において、その日から6月以内に、(略)合併後存続する法人若しくは合併により設立された法人、分割によりその事業の全部を承継した法人又はその事業の譲受人旅行業の登録を受けかつ、旅行業者であった者が供託した営業保証金につき権利を承継した旨の届出を観光庁長官にしたときは、その営業保証金は、新たに旅行業者となった者が第7条第1項の規定により供託した営業保証金とみなす

ただし、この規定を参照すると分かるように、承継可能なのは供託所に供託した営業保証金の身であり、旅行業協会に入会して納付した弁済業務保証金分担金については承継されないため、改めて供託所に供託をするか、旅行業協会に入会して納付をする必要があります。

旅行業登録のM&A・事業承継時の引継ぎまとめ

吸収分割をする際にはまず先に承継会社の旅行業登録を進める

事業承継後に旅行業登録をする場合、営業保証金を引き継ぐことができる

旅行業協会に納めた弁済業務保証金分担金は、引き継ぐことができない

会社分割(吸収分割)のスキームを利用して旅行業の事業承継を進める場合、最も大事なのは「今取引のある旅行者に影響が出ないか?」というところです。
可能な限り影響を最小限にとどめるためには、事前の段取りが非常に重要となります。
特に、旅行業登録の取れる算段が無い状態で進めてしまうのは非常に危険です。
行政書士TLA観光法務オフィスでは、旅行業登録手続の専門家として、このような吸収分割による事業承継についても的確なスキーム構築のアドバイスをすることが可能です。
もしお困りの際は、ぜひお問い合わせフォームよりご連絡ください。
あなたからのご連絡をお待ちしております。

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