不当景品類及び不当表示防止法という、一般的には景品表示法と省略して呼ばれる法律があります。
景品表示法は、不当な景品や表示によって、消費者が商品選びをする際に合理的な選択をすることができなくなってしまう、ということを防止するための法律です。
この景品表示法第31条で、事業者や事業者団体は、事業者間の公正な競争を確保するための規約を設定することができる、とされています。
簡単に言ってしまえば、業界の事業者が不当な景品や表示に頼らず、消費者が合理的な判断をして、かつ事業者間の競争が公正なものになるように自主規制のルールを設定しましょう、ということです。
これを、公正競争規約と言います。
この記事では、旅行業界の公正競争規約の全体像について解説をいたします。
- 公正競争規約とは何か
- 旅行業界の公正競争規約にはどんな種類があるのか
- 旅行業界の公正競争規約の概要
公正競争規約とは
公正競争規約とは、景品表示法第31条の規定に基づいて、事業者や事業者団体が内閣総理大臣と公正取引委員会の認定を受けて設定する、商品やサービスの表示方法に関するルールと、その業界での景品類の提供の制限に関するルールのことです。
実務的には、内閣総理大臣の権限は消費者庁長官に委任されているため、消費者庁長官と公正取引委員会の認定を受けることになります。
公正競争規約の内容について、一般的には以下の2種類の規約のどちらか、あるいは両方を定めることになります。
①表示に関する公正競争規約
②景品類の提供の制限に関する公正競争規約
前者を表示規約、後者を景品規約と呼称することもあります。
景品表示法は、景品類の提供や表示の方法について定めた一般法ともいえる存在です。
一般法なので、どんな業界でも適用できるように比較的抽象的な内容になっています。
一方で公正競争規約は、事業者や事業者団体が定めて、それを消費者庁長官と公正取引委員会が認定する形をとっているため、規制の内容が各業界の実務運用に沿った形で作成されます。
そして、その規制の内容は事前に認定を受けてから運用を始めるため、その規約に従う限り、景品表示法違反になることもない、ということです。
- 公正競争規約は、表示規約と景品規約として作成されることが多い
- 公正競争規約は各業界の実務に合わせて作成できる
旅行業界の公正競争規約
旅行業についても、以下の2つの公正競争規約が存在します。
①募集型企画旅行の表示に関する公正競争規約
②旅行業における景品類の提供の制限に関する公正競争規約
どちらの公正競争規約についても、旅行業法等の法令や実務上の運用を踏まえて詳細に規定されています。
旅行業界の公正競争規約を運用する組織として、旅行業公正取引協議会という組織が存在します。
旅行業公正取引協議会への加入は任意ですが、協議会の会員となって、公正競争規約を遵守している限りは、景品表示法違反として取り上げられることはまずありません。
万が一協議会の会員が規約に違反している場合は、まず協議会が違反事案を調査して、措置を行うことになっています。
景品表示法に違反した場合、措置命令や課徴金納付命令の対象となります。
措置命令は、違反行為に対して、
①行為の差止め
②違法行為が再度起きないようにするために必要な事項
③これらの実施に関する公示
④その他必要な事項
を命令することです。
③のこれらの実施に関する公示とは、例えば新聞広告や自社ウェブサイトに掲載するようなことをいいます。
措置命令に従わない場合は、2年以下の懲役か300万円以下の罰金、あるいはそのどちらも科される可能性があります。
課徴金納付命令は、簡単に言えば罰金のような制度です。
優良誤認、有利誤認と言われるような不当表示がその対象になります。
課徴金の金額については、対象となる期間に売り上げた金額に一定の利率を賭けた額を支払うことになります。
※優良誤認…他のものより著しく優良であると勘違いさせること
※有利誤認…他のものより著しく取引上有利であると勘違いさせること
募集型企画旅行の表示に関する公正競争規約
旅行業における表示規約は、募集型企画旅行の表示について規制をかけたものです。
ここでいう表示とは、旅行会社が旅行者アプローチするため、あるいは取引条件の説明をするために、その募集型企画旅行の内容や取引条件に関する事項について、パンフレット、雑誌、チラシ、メディア、インターネット等の媒体を使用して行う広告等のことをいいます。
さらにかみ砕いていうのであれば、パンフレットを作ったり広告を出したりしてお客様にご案内するときにはこういうことに注意しましょうね、ということが決められています。
本公正競争規約は、規約本体と施行規則、運用基準の3本セットで構成され、実務上は運用されています。
説明書面や募集広告作成に当たって、使用する用語の制限や、オプショナルツアーの表記上の注意、温泉に関する表記上の注意、文字の大きさ等、その内容は具体的で、実務を意識したものとなっています。
旅行業における景品類の提供の制限に関する公正競争規約
旅行業における景品規約は、旅行会社が主体的に自社の顧客に対して行う景品類の提供を規制するルールです。
景品の提供全てがダメな訳ではなく、過大な景品類の提供が禁止されています。
表示規約と同じように、規約、施行規則、運用基準の3つで構成され、実務上は運用されています。
法律上では「景品」について、以下のように定義されています。
顧客を誘引するための手段として、その方法が直接的か間接的かを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、事業者が自己の供給する商品または役務の取引に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益
①顧客を誘引する手段かどうか(顧客誘引性)
②取引に付随するものかどうか(取引付随性)
③顧客の経済的な利益になっているかどうか(経済利益性)
の3つが景品であるかどうかの判断ポイントです。
景品に該当する場合、旅行者との取引額や景品の提供方法によって、景品として提供することのできる金額に規制がある、ということをここでは覚えておいていただければよいかと思います。
見返りが大きければ大きいほど消費者は合理的な判断ができなくなりますし、一方で事業者側も顧客を自社に引っ張るために、他社と比較して過度な景品を提供し、その悪循環が続くことを防ぐための措置です。
- 公正競争規約は、業界の自主規制のためのルール
- 表示についての規約と景品についての規約がある
- 規約は業界の実務運用に合わせて詳細に作られている
消費者保護の観点から、広告表示や景品提供をする場合には避けては通れないのが景品表示法の規定や公正競争規約です。
日々業務を行っていると細かいルールまで目がいかないことも多くなりますが、「知らなかった」では済まされないのが法律の世界です。
守らなければいけないのは旅行業法だけではないのか
と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
今の時代、コンプライアンス経営というのは、顧客からも、そこで働く従業員からも求められるものです。
普段の事業運営で、コンプライアンスの側面から見て気になることがある、ということがございましたら、行政書士TLA観光法務オフィスに相談をしてみてください。
観光法務の専門家としてお手伝いができると確信しております。
何か気になることがございましたら、以下のお問い合わせフォームよりご相談ください。
あなたからのご連絡をお待ちしております。