旅行業法等の行政手続では、行政から事業者に対して何らかの処分が行われようとしている場合、事前に防御・反論機会が与えられています。
旅行業法では、新規・更新・変更登録申請に対して登録拒否処分をする場合には意見の聴取手続を。
業務改善命令、業務停止命令、旅行業等の登録取消処分をする場合には聴聞手続を、事前に行うように求めています。
こうした手続は、通常は法律に従って営業をしていれば巻き込まれることはまずないのですが、行政の事実誤認によって、こうした手続の対応をせざるを得ない可能性は、ゼロではありません。
そこで、この記事では行政処分に対する事前の防御・反論方法としての意見の聴取と聴聞手続について、全体感が分かるように解説をしていきます。
- 行政からの処分に対して、どのような防御・反論のチャンスがあるのか
- 意見の聴取と聴聞の違いについて
- それぞれの手続がどのように進められるのかについて
行政処分と行政手続法
行政処分とは何かを考えるとき、まずは行政手続法という法律から紐解く必要があります。
旅行業の意見聴取や聴聞手続きをみていくときにも必要な知識となるので、どうぞお付き合いください。
行政手続法の制定と行政処分の類型化
平成5年に行政手続法という法律が成立しました。
これは、行政運営の公正の確保と透明性の向上を図り、国民の権利利益を保護することを目的とした法律です。
行政手続法では、行政がする様々な行為を類型化して、その行為類型ごとに統一のルールを決めて、行政の担当者や行政の部署ごとに手続の運用方法が違う、ということを無くしていくことを意図しています。
この後、意見の聴取手続や聴聞手続の解説を進めるにあたって、次の3つの言葉の定義だけ抑えておいていた飽きたいと思います。
行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいう。
法令に基づいて、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(許認可等)を求める行為で、その行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。
行政庁が、法令に基づき、特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する処分をいう。ただし、次のいずれかに該当するものを除く。
- 事実上の行為及び事実上の行為をするに当たりその範囲、時期等を明らかにするために法令上必要とされている手続としての処分
- 申請により求められた許認可等を拒否する処分その他申請に基づき当該申請をした者を名あて人としてされる処分
- 名あて人となるべき者の同意の下にすることとされている処分
- 許認可等の効力を失わせる処分であって、当該許認可等の基礎となった事実が消滅した旨の届出があったことを理由としてされるもの
行政手続法では、処分を申請に対する処分と不利益処分に分類して、それぞれの類型で行政が対応すべきルールを定めています。
申請に対する処分への防御・反論機会
申請に対する処分の防御・反論機会について、行政手続法では定めがありません。
では、どうすれば良いかというと、以下の2つが考えられます。
不服申立て
まずは、行政不服審査法上の不服申立てをする方法です。
不服申し立てには、①審査請求、②再調査の請求、③再審査請求の3種類がありますが、一般的に我々市民がお世話になるのは①審査請求です。
審査請求に対する結果のことを裁決(さいけつ)といいますが、この裁決に不服がある場合に再審査請求をすることができます。
また、再調査の請求は、審査請求をする前に請求できる不服申立てです。
再調査の請求も再審査請求も、法律で個別の定めがある場合にのみ行うことが可能な制度であり、その意味でも審査請求が不服申立ての大原則となります。
審査請求は、行政の違法または不当な処分に対して不服を申立て、行政がそれを審査する手続です。
行政がした処分に対しての審査請求が認容(認められること)されると、その処分の取消しや変更をして再度処分を下すことになります。
また、行政が本来すべき処分をしないこと(不作為)についての審査請求が認容されると、不作為が違法または不当であることが宣言されて、行政に対して処分をすべき旨が命令されることになります。
なお、不服申立ての制度は裁判ではなく、行政による内部審査制度です。
取消訴訟
防御・反論機会の2つ目は、取消訴訟です。
これは、行政事件訴訟法で定められている、裁判制度の1つです。
裁判なので、行政がした処分について、裁判所がその処分が違法かどうかについて判断をし、違法であるとしたときにその処分を取消すことが可能です。
取消訴訟はあくまでも行政がした処分を取消すための裁判なので、行政の不作為については取消訴訟で争うことができません。
不作為について裁判で争う場合には、不作為の違法確認訴訟で行政の不作為が違法かどうかの判断をしてもらい、さらに義務付け訴訟で行政が処分すべき旨を命じてもらう必要があります。
申請に対する処分への防御・反論機会のまとめ
①審査請求
②取消訴訟
①審査請求
②不作為の違法確認訴訟と義務付け訴訟
不利益処分への防御・反論機会
不利益処分に対する防御・反論機会としては、行政手続法では①聴聞と②弁明の機会の付与の2つが定められています。
聴聞
聴聞が必要な不利益処分として、行政手続法では以下の4類型が定められています。
聴聞手続は、この後説明する弁明の機会の付与に比べて厳格な手続が定められており、より重大な不利益処分が下されそうなときに実施される手続です。
弁明の機会の付与
聴聞が必要な不利益処分以外の不利益処分については、弁明の機会の付与が必要です。
弁明の機会の付与は、原則書面を提出して行うこととされており、提出した書面をもとに審理が行われ、最終的な処分が決定します。
防御機会を経た後の権利救済
聴聞、弁明の機会の付与を経たあとに行政が下した処分に対しては、先に解説をした不服申立て、取消訴訟等をすることが可能です。
意見の聴取
意見の聴取は、旅行業法で認められている行政の処分に対する事前の防御・反論機会です(旅行業法第64条)。
処分をしようとしている旅行業者等に対して、処分の前に釈明や書面の提出の機会を与える制度です。
行政手続法では、処分に関する手続について、他の法律に特別の定めがある場合はその定めに従うこととしています(行政手続法第1条第2項)。
この聴聞の聴取は、処分に関する旅行業法上の特別の定めにあたります。
意見の聴取が必要な処分
意見の聴取が必要になる旅行業法上の処分は、以下のとおりです。
これらの登録拒否処分は、行政手続法上は申請に対する処分となるため、聴聞や弁明の機会の付与などの事前の防御・反論の機会は用意されておらず、争うとすれば処分が行われた後に不服申立てや取消訴訟で対応することになります。
しかし、旅行業法ではこれらの登録申請に対する登録を拒否する処分は、それぞれの事業者の権利利益に大きく影響するということを考慮して、事前の防御・反論の機会として意見の聴取手続を定めているのです。
意見の聴取前の手続
意見の聴取手続について、聴取前に行う手続きとして、処分を受ける予定の人に対する通知と、その旨の公示をすることが求められています。
また、意見の聴取をしないこととしてもよいケースについても定められています。
通知
観光庁長官は、意見の聴取の期日の1週間前までに、
の2点を処分を受ける予定の人に通知しなければなりません。
公示
意見の聴取の通知事項のうち、意見の聴取の期日・場所は公示をすることとされています。
この公示の方法については特別な定めが無いため、行政庁の掲示板に掲示する方法、官報に掲載する方法、インターネット等の手段により行政庁のWebサイト上に公表する方法などが考えられます。
意見の聴取をしない例外
通知・公示をした上で一定のケースに当てはまる場合は、意見の聴取をすることなく前掲の登録拒否処分をして問題ないこととされています。
意見の聴取をする必要が無い例外ケースは、以下のとおりです。
処分を受ける予定の人の所在が不明で通知をすることができず、かつ、公示をした日から30日経過しても所在が判明しないとき
処分を受ける予定の人やその代理人正当な理由なく意見の聴取の期日に出頭しないとき
意見の聴取手続
意見聴取会
意見の聴取は、観光庁長官が指名する職員を議長とする意見聴取会で行います。
また、この意見聴取会の対象となるのは、観光庁長官がする処分に関するものだけです。
つまり第1種旅行業登録に関する登録拒否処分のみが対象です。
都道府県知事がする処分(第1種旅行業以外の旅行業・旅行業者代理業・旅行サービス手配業)に関する意見の聴取については、各都道府県で行うことになります。
これは、観光庁長官の権限になっている事務の一部を都道府県知事が行うこととなっているためです(旅行業法第67条、旅行業法施行令第5条)。
意見聴取される者の代理人
意見を聴取される人=処分を受ける予定の人は、意見聴取会に代理人を立てることが可能です。
代理人が意見聴取会にすっ咳するためには、自らが代理人であることを、委任状等の書面で証明する必要があります。
議長の権限
意見聴取会の進行にあたって、議長に認められている権限は以下のとおりです。
③の意見の聴取を延期する場合、次回の意見聴取会の日時と場所を定めて、意見を聴取される人と出席者に通知する必要があります。
都道府県知事がする処分の意見の聴取
都道府県知事がする旅行業・旅行業者代理業・旅行サービス手配業の新規登録、旅行業の登録の有効期間の更新登録、旅行業者の登録業務範囲の変更登録申請に関する登録拒否処分が行われる場合には、各都道府県が意見の聴取に関する手続を行います。
意見の聴取の手続について定めた旅行業法施行規則第64像は、観光庁長官がした処分だけをその適用対象としているため、都道府県は独自に意見の聴取の手続に関する規定を定めて、意見の聴取の手続をする必要があります。
聴聞
旅行業法第65条では、行政手続法上の聴聞手続きについて、特別な規定を設けています。
具体的には、行政手続法上の聴聞の対象となる範囲を拡げて、より事業者の方が保護されるような仕組みになっています。
聴聞が必要な処分
行政手続法上の考え方
行政手続法上、聴聞が必要な処分は、①許認可等の取消、②資格や地位のはく奪、③役員や業務従事者の解任という、より重大な不利益処分が対象となっています。
今回の論点となる不利益処分の対象は、業務改善命令(旅行業法第18条の3、第36条)と業務停止命令(旅行業法19条第1項、第37条第1項)です。
業務改善命令については、以下のような内容が含まれています。
観光庁長官は、以下の措置をとるように命令することができる
①旅行業務取扱管理者を解任すること
②旅行業務取扱料金または企画旅行の旅行者から収受する対価を変更すること
③旅行業約款を変更すること
④企画旅行に関する旅程管理措置を確実に実施すること
⑤旅行者に生じた損害を賠償するために必要な金額を担保できる保険契約を締結すること
⑥その他、業務の運営の改善に必要な措置をとること
これらの業務改善命令の中で、①の管理者の解任は、行政手続法でいう「業務従事者の解任」にあたる内容なので、聴聞が必要とされています。
しかし、それ以外の項目については行政手続法上の聴聞が必要な不利益処分には該当しないので、弁明の機会の付与で良いということになります。
また、業務停止命令についても許認可等の取消をするわけではないため、聴聞が必要な不利益処分とはならず、弁明の機会を付与すればいいということになります。
旅行業法上の考え方
聴聞の特例を定めている旅行業法の規定では、業務改善命令(旅行業法第18条の3、第36条)の規定に基づく処分のうち選任管理者の解任以外の規定と、業務停止命令(旅行業法19条第1項、第37条第1項)について、聴聞を行うこととしています。
既に解説したとおり、行政手続法上は弁明の機会の付与をすればいい不利益処分であっても、あえて聴聞の手続を行うこととしているのです。
これは様々な理由が考えられますが、行政手続法が施行される以前から旅行業法では、登録拒否処分・業務改善命令・業務停止命令・登録取消処分については聴聞を実施することとしており、行政手続法の施行により聴聞をしていた手続を弁明の機会の付与にいわば格下げするのは行政手続の公正の確保の観点からも相応しくないという点があろうかと思います。
上記のうち、登録拒否処分だけは行政手続法上の申請に対する処分であり不利益処分には該当しないため、意見の聴取という聴聞類似の手続を特別に設定しているということにもつながります。
聴聞前の手続
通知と教示
観光庁長官は、聴聞の期日の1週間前までに、
の4点を処分を受ける予定の人に通知しなければなりません(行政手続法第15条第1項)。
また、通知の書面では
という内容を、通知事項とあわせて処分を受ける予定の人に教示しなければなりません (行政手続法第15条第2項) 。
公示
行政手続法上、聴聞の通知を出せば公示は不要なのですが、旅行業法の不利益処分に関する聴聞手続きでは、聴聞の期日の1週間前までに、聴聞の期日・場所を公示することまで必要です(旅行業法第65条第2項)。
通知の例外
不利益処分の名あて人の所在が判明しない場合、通知を送ることができません。
そうした場合でも、以下の手続を踏むことで、通知が届いた扱いにすることが可能です(行政手続法第15条第3項、旅行業法第65条第3項)。
①行政庁の事務所の掲示場に次の内容を掲示
(1)氏名、聴聞期日・場所、聴聞事務を所掌する組織の名称・所在地
(2)行政庁が聴聞の通知内容を記載した書面をいつでも交付する旨
②掲示を始めた日から2週間を経過
資料の閲覧請求
不利益処分を受けることとなる、聴聞の通知を受け取った当事者と、聴聞手続に参加する参加人のうち不利益処分によって自分の利益を害されることになる人は、聴聞の通知があったといから聴聞終結のときまで、聴聞事案に関する調査結果の調書や、その他処分の原因となる事実を証する資料の閲覧を求めることができます。
聴聞(審理)方式
公開審理
行政手続法上、聴聞の審理は行政庁が公開することを相当と認めるときを除いて、公開しないとされています(行政手続法第20条第6項)。
これは、聴聞の審理が原則非公開であることを意味しています。
しかし、旅行業法の規定ではこの原則を修正しており、聴聞の審理は公開で行わなければならないとしています(旅行業法第65条第4項)。
聴聞の関係者
聴聞の手続に関わる人として、以下の登場人物が出てきます。
文字通り聴聞を主宰する人のことで、原則的には行政庁が指名する職員が主宰者となります。
聴聞の当事者や参加人は主宰者になることができません。
当事者は、聴聞の通知を受け取った人のことを指します。
所在が不明で、不利益処分の名あて人として行政庁の掲示板に聴聞に関する内容が掲示され、通知が届いた扱いとされる人もここにふくまれます。
代理人は、当事者のために、聴聞に関する一切の行為をすることができる立場の人のことで、当事者は自由に選任することができます。
代理人であることの資格は、委任状等の書面で証明する必要があります。
関係人は、当事者以外の人で、不利益処分の根拠法令と照らし合わせて不利益処分についての利害関係があると認められる者のことを指します。
関係人は、必要に応じて聴聞に参加することができます。
参加人は、関係人のうち聴聞に参加した人のことを指します。
当事者と同じく、関係人も代理人を選任して聴聞に参加することができますが、代理人であることの資格は、委任状等の書面で証明する必要があります。
聴聞期日の審理方式
聴聞の審理は、以下のように行われます。
最初の聴聞の期日の冒頭で、主催者が行政庁の職員に、①予定されている不利益処分の内容、②根拠法令条項、③原因となる事実を、聴聞の期日に出頭した人に対して説明をさせる。
当事者または参加人は、出頭して意見を述べ、証拠書類等を提出し、主宰者の許可を得て行政庁の職員に対して質問をする。
当事者・参加人の一部が出頭しない場合でも、聴聞の審理を行うことができる。
主宰者は、必要があると認めるときは、当事者・参加人に質問をし、意見の陳述・証拠書類等の提出を促し、または行政庁の職員に対して説明を求めることができる。
当事者・参加人は、聴聞の期日へ出頭する代わりに、主宰者に対して、聴聞の期日までに陳述書・証拠書類等を提出することができる。
主宰者は、聴聞の期日に出頭した人に対して、その求めに応じて、提出された陳述書・証拠書類等を示すことができる。
聴聞の終結
聴聞の審理は、主宰者が必要性を認めた場合には、新しい期日を定めることができます。
このときに、当事者・参加人に対しては、事前に、次回の聴聞期日と場所を書面で通知する必要があります。
ただし、聴聞期日に出頭した人に対しては、聴聞の場で告知をすれば問題ないことになっています。
新しい期日を定めない場合には、聴聞は終結します。
また、主宰者は、当事者の全員または一部が正当な理由なく聴聞期日に出頭せず陳述書・証拠書類も提出しない場合、あるいは参加人の全員または一部が聴聞の期日に出頭しない場合は、これらの出頭しない者に対して改めて意見を述べ、証拠書類等を提出する機会を与えることなく、聴聞を終結することが可能です。
聴聞調書と報告書の作成
主宰者は、聴聞の審理の経過を記載した書面を作成して、その調書の中で、不利益処分の原因となる事実に対する当事者・参加人の陳述の要旨を明らかにしておく必要があります。
この調書は、審理が行われた場合にはその期日ごとに、審理が行われなかった場合には聴聞の終結後すみやかに作成されます。
また、主宰者は、聴聞の終結後すみやかに、不利益処分の原因となる事実に対する当事者等の主張について、理由があるかどうかの意見を記載した報告書を作成して、聴聞の調書とあわせて行政庁に提出をします。
当事者と参加人は、この調書と報告書の閲覧を求めることができます。
不利益処分の決定
行政庁は、不利益処分を決定するときには、主宰者から提出を受けた調書の内容と報告書に記載された意見を十分に参酌(さんしゃく)する必要があります。
参酌という言葉はあまりなじみのない言葉かもしれませんが、十分に意見参考にして取り入れるように、というような意味だと思って頂ければOKです。
意見の聴取や聴聞手続は、基本的には法律を守りながら業務を行っている限り、縁の無いものです。
しかし、行政の間違った事実認定などによって、いわれのない意見の聴取や聴聞手続に巻き込まれてしまう可能性は、ゼロとはいえません。
行政書士TLA観光法務オフィスでは、観光法務の専門家として、その知見に基づいて行政処分に対する事前の反論・防御機会に関するアドバイス・サポートをすることが可能です。
もし、いわれのない聴聞等の通知を受けていて、対応に困ってしまっているような場合には、ぜひ一度ご相談いただければと思います。
私共の経験が、きっとあなたのお役に立てると信じております。
ご連絡がないことが一番ですが、万が一の際には頼っていただけましたら、幸いです。