旅行業における営業保証金|制度解説基礎編

旅行業における営業保証金|制度解説基礎編
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旅行業の特徴の1つとして、営業保証金制度があります。
これは、旅行会社から一定の金額を国に提供させることで、万が一旅行会社の倒産などで旅行者に損害が出た場合に、その旅行会社が国に提供している営業保証金の中から、旅行者に対して補償をするためです。
同じように保証金制度がある業種としては宅地建物取引業(宅建業)がありますが、旅行業と宅建業の保証金制度はそれぞれ微妙に異なっているところもあります。

この記事では総論的な位置づけで、旅行業における営業保証金制度について全体像を解説いたします。

この記事を読んでわかること

  • 営業保証金とは何かについて
  • 営業保証金を納める金額
  • 営業保証金を納めるタイミングと取り戻すタイミング

目次

営業保証金の概要

営業保証金とは何か

営業保証金とは、旅行業法の目的である「消費者保護」を実現するための制度です。
一定の金額を国に預けることで、旅行会社の責任が原因で旅行者に不測の損害が発生した際に、その預けた保証金の範囲内で旅行者に損害の補填をしようという制度です。

しかし実際には、損害を負う旅行者が多かったり、損害の金額が大きすぎたりすると、預けた保証金だけではカバーできずに、結果的に旅行者が保護されないということも起こります。

誰がどこに納めるのか

営業保証金は、旅行会社が供託所に供託します。
供託所ならどこでもいい訳ではなく、旅行会社の主たる営業所の所在地に最も近い供託所にしなければなりません。

供託所とは、供託手続のできる法務局のことです。
法務局には本局や出張所がありますが、供託できるところとできないところがあるので、事前に確認が必要です。

供託の方法

供託は、以下のいずれかの方法ですることが可能です。

①金銭(現預金)
②国債証券
③地方債証券
④特別の法律により法人が発行する債権
⑤優先弁済を受ける権利を保証されている社債券

金銭以外の有価証券類を供託する場合は、その証券の額面全額を供託金額として認められる場合と、認められない場合があるので注意が必要です。

弁済業務保証金分担金について

営業保証金と似た制度で弁済業務保証金分担金という制度があります。
これは、旅行業協会に加入した旅行会社による営業保証金制度だと思って頂ければOKです。

旅行会社は、弁済業務保証金分担金と呼ばれる、本来納めるべき営業保証金額の5分の1の金額を加入した旅行業協会宛に納めます。
そして、協旅行業会が旅行会社に代わって本来納めるべき営業保証金額を供託所に納めます。

営業保証金の金額

旅行業の登録種別で決まる

営業保証金の金額は、旅行業の登録種別ごとに決められています。
旅行業者代理業旅行サービス手配業については営業保証金は不要です。

登録種別ごとの営業保証金の最低金額については、下記の表のとおりです。

旅行業の登録種別営業保証金(最低金額)
第1種旅行業7000万円
第2種旅行業1100万円
第3種旅行業300万円
地域限定旅行業15万円
<表1>旅行業の登録種別ごとの営業保証金の最低金額

毎年の旅行者との取引額で決まる

営業保証金は、常に一定の金額ではありません

旅行会社の義務として、毎年の事業年度が終わってから100日以内に取引額の報告をすることになっています。
これは、旅行会社がその1年間で旅行者と旅行業務に関する取引額がどれくらいあったのかを登録行政庁に報告する制度です。
この取引額の報告を基準にして、納めるべき営業保証金の金額が毎年変わります。

例えば、地域限定旅行業の営業保証金額は、最低金額が15万円です。
旅行者との年間取引額が400万円以上になると、営業保証金は100万円に上がります。
同じく年間取引額が5000万円以上になると、営業保証金は300万円に上がります。

このように、旅行業の登録種別ごとに、取引額が●●円以上になると、営業保証金は◆◆円になる、という仕組みを取っています。
なお、第1種旅行業者の場合は、海外募集型企画旅行の取引額が8億円以上になると、追加で営業保証金を供託する仕組みが導入されています。

営業保証金を供託するタイミング

新規登録後

旅行業登録を新しく受けたときには、営業保証金の供託が必要です(旅行業法第7条第1項)。
供託した後に供託済であることの届出を行わない限り、営業を始めてはならないことになっています(旅行業法第7条第3項)。
供託すべき金額は、旅行業の新規登録申請時に提出した事業計画の取扱い予定額を使って算出します(旅行業法施行規則第6条の2)。

変更登録後

旅行業の登録種別を変更する変更登録後にも、既に供託している営業保証金では変更登録後の営業保証金をカバーできないような場合には、不足している分を追加で供託します(旅行業法第9条第5項)。
この場合も、追加で供託した旨の届出を行わなければ、営業を始めてはいけないことになっています(旅行業法第9条第6項)。
供託すべき金額は、変更登録申請時に提出した事業計画の取扱い予定額を使って算出します(旅行業法施行規則第6条の2)。

法令が変わったとき

営業保証金の金額を定めている旅行業法施行規則というルールが変更にり、現在供託している営業保証金では不足する場合にも、追加で不足分を供託しなければなりません(旅行業法第8条第2項)。

毎年の旅行者との取引額を報告した後

旅行会社は、事業年度が終了すると100日以内に旅行者との旅行業務に関する取引額を登録行政庁に報告することになっています。
そして、この取引額の報告に基づいて、毎年、事業年度ごとに供託すべき営業保証金額を算出しています。
したがって、取引額の報告をした結果、現在供託している営業保証金よりも多い金額の供託が必要になった場合には、不足している分を追加で供託する必要があります(旅行業法第8条第1項)。

有価証券を供託している場合で、主たる営業所の最寄の供託所が変わる場合

営業保証金は有価証券でも供託することができます(旅行業法施行規則第8条)。
もし、本店移転や営業所移転によって、旅行会社の主たる営業所が変わり、供託すべき最寄りの供託所が変わってしまった場合、手続が必要です。

金銭のみで供託をしている場合は、営業保証金を供託した供託所に対して、費用を予納して、移転後の最寄りの供託所へ営業保証金の保管換えをするように請求することができます(旅行業法第18条の2第1項)。

供託に有価証券が含まれている場合、既に納めている供託物を旧供託所から新供託所に移し替えるという手続をすることができません。
したがって、この場合には、新供託所に改めて営業保証金を供託して、その後旧供託所から既に供託済の供託物を取り戻す手続を行います(旅行業法第18条の2第2項)。

旅行者が旅行会社に対して持つ債権の弁済を受ける権利を実行し、認められた場合

旅行者が旅行会社と旅行業務に関わる取引をした場合、旅行者は旅行会社に対して債権を持ちます
何らかの理由で旅行会社が義務を果たせない(ツアーを催行できない)ことになり、旅行者が請けた損害を補填するために、営業保証金から旅行者に対して債権の支払をした場合、支払った分だけ供託した営業保証金が減少していることになります。

旅行会社として営業している間は常に法律で求められた営業保証金の金額を満たしている必要があるので、このような場合にも不足分を供託しなければなりません(旅行業法第18条第1項)。

営業保証金を取り戻すタイミング

廃業

旅行業を廃止して、登録を抹消した場合には、供託している営業保証金の還付手続をすることができます(旅行業法第20条第3)。

法令が変わったとき

営業保証金の金額について定めているルールが変更になり、供託すべき営業保証金の金額が減少したような場合で、既に供託している営業保証金の金額が規定金額よりも上回っている場合には、超過分について還付手続をすることができます(旅行業法第8条第4項)。

毎年の旅行者との取引額を報告した後

事業年度ごとの旅行者との取引額についての届出をした結果、今現在供託している営業保証金が、供託すべき営業保証金の金額を上回っている場合は、超過分について還付手続をすることができます(旅行業法第9条第3項)。

有価証券を供託している場合で、主たる営業所の最寄の供託所が変わる場合

営業保証金を供託するタイミングの部分でも触れていますが、有価証券を供託している場合で供託所が変更になるときには、先に新供託所に供託をしてから、旧供託所の供託物を取戻すことができます(旅行業法第18条の2第2項)。

イレギュラーケース

営業保証金の承継

①旅行業者が個人事業主で、この旅行業者が死亡したときの相続人
②旅行業者が法人で、その法人が合併で消滅したときの合併後に存続or設立する法人
③旅行業者が法人で、その法人が分割で事業承継したときの事業承継をした法人
④旅行業者が事業の全部を譲渡したときの事業の譲受人

上記の場合で、①~④のそれぞれの相続人や事業を受け継いだ法人が旅行業の登録を受け、かつ、既に供託している営業保証金について権利を承継した旨の届出をした場合には、新しく旅行業の登録を受けた相続人や法人が権利を受け継いで、新しい旅行業者の営業保証金として取扱われることになります(旅行業法第16条)。

営業保証金の保管換え

主たる営業所の移転で、最寄りの供託所が変わる場合、有価証券を供託しているときには、供託物の移動ができないので移転後の新しい供託所に供託してから、移転前の旧供託所の供託物を取戻すということをお伝えいたしました。

営業保証金を全額金銭(現預金)で供託していた場合には、この営業保証金を供託している供託所に対して、新しい供託所へ供託物を移転するように請求することが可能です。

営業保証金制度まとめ

  • 営業保証金は旅行者保護のため、定められた金額を常に供託所に供託する必要がある
  • 営業保証金額は旅行業の登録種別と旅行者との取引額の組み合わせで事業年度ごとに決定する
  • 有価証券も供託できるが、種類によっては額面通りの評価をされない

旅行業に関するお手続・事業の運営で、気になっていることはございませんか?

営業保証金は、基準資産額と並んで旅行業の重要な制度です。
旅行者の保護という目的を達成するために、旅行会社さまにとってもやや複雑な制度になっています。
営業保証金額が不足していると行政指導の対象にもなりますから、十分に気を付けたいものです。

行政書士TLA観光法務オフィスでは、旅行会社さまの手続面のサポートや、事業運営を行う上でのコンプライアンス確保についてのサポートも行っております。
気になることがある、サポートを受けてみたい、話を聞きたいという場合には、ぜひ一度、下記お問い合わせフォームよりご連絡ください。

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