【コラム】観光事業者が旅行者から選ばれるために必要なコンセプトとファンづくり

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新型コロナウイルス感染症の拡大により、日本を含めた世界中の観光業界は大きなダメージを受けました。
観光業界と一口に言っても、観光を構成する事業者はさまざまです。
旅行会社、宿泊施設事業者、バスや鉄道や航空といった運輸事業者、飲食店、土産物屋、テーマパーク、美術館や博物館といった多くの事業者それぞれが、観光業を構成する1要素となります。

徐々に、国内観光については動きが戻りつつあります。
その中で、観光事業者は何をすべきなのか。
実体験を元に、考えを整理してみたいと思います。

目次

越境移動自粛の解除後、雨の浅草に思うこと

雨の浅草

2020年6月19日(金)、全国的に都道府県境をまたいでの移動自粛が解除されたその日に、仕事で東京・浅草に行く用事がありました。
天気は、あいにくの雨。
梅雨らしい天気です。
銀座線の浅草駅で下車して、1番出口を出てスカイツリーを背中に抱えながら、雷門通りを上野方面に向けて歩けば、1分程度で雷門が目の前に現れます。

だいたい、朝の10時30分くらいの光景です。
午前中で、雨が降っているとはいえ、これがかの雷門なのか、というくらいに人がいません。
あぁ、これが観光地の現実か、ということをまざまざと見せつけられたようです。
仕事の打合せ場所は浅草寺の裏側だったので、雷門をくぐって仲見世通りを浅草寺方面へ直進します。

雷門をくぐってすぐの場所です。
メディアに取材されているお店もありましたが、ご覧の通りほとんど人が歩いていません。
いくら午前中で雨が降っているとはいえ、です。

写真を見る限りでは、お店はだいぶ営業しているように見えます。
が、実際には奥に進むにつれてシャッターが増えてきて、メイン通りの6割くらいは閉まっている印象を受けました。
営業時間を短縮して、お昼近くにならないと開かないお店もありましたし、そもそも当面の間営業自粛(休業)しているところもあるようで、なかなか厳しい現実だと思います。

開いているお店も、そもそも人が歩いていないのでとても暇そう。

そして、宝蔵門(仁王門)。

当然、ここにも人はほとんどおりません。
参拝する人もほぼゼロでした。

この後、敷地内を通り抜けて二天門から浅草寺を後にして、打ち合わせに向かったわけですが、道中感じたことがいくつかあります。

営業中の店舗

仲見世商店街では、営業している店舗も休業している店舗もあったわけですが、個人的には何のためにお店を開けているんだろう、と思うような店も少なくありませんでした。
たとえば、侍とか武士と書かれたTシャツを売っているお店。

日本人は、そういうものを買うんでしょうか?
移動自粛が解除されて地方から観光に来た人が、買ってくれますか?
確固たるデータを持っている訳ではないですが、やっぱりそういうものを購入してくれる人は、外国人観光客なんじゃないかと思うのです。
日本に来たその記念に、日本の有名な観光地でクールな漢字がプリントされたシャツを購入する。
(そもそも、個人的にはこうした発想もちょっと古いとは思っているのですが、、、)

そのお店が販売している商品のターゲットって、どこにいるんでしょうか?
そういうのが全く見えないお店があるように感じました。
もちろんすべてがすべてそういう訳ではないのは理解しています。
ですが、観光客が戻ってこない中で、観光客向けの商品を販売するために店を開けて、お客さんが来ないっていうのは当たり前なんじゃないかと思うのです。

個人的には、ここに、コロナ後の新世界で何をすべきかということのヒントが見えるような気がします。

将来に向けた種まき

一方で、面白い動きも見られました。
人が少ないことを利用して、将来に向けた種まきをしている人々もおられたのです。

どういうことか。

まずは、雨の中でもガイド動画を作成していると思しき方、何名かとすれ違いました。
カメラを構えながら解説しているんですね。
もちろん、ご本人に確認したわけではないので本当にガイド動画を作成しているかどうか、ということに関しては分かりません。
なので、ここではちょっとポジティブに捉えています。

あとは、添乗員と思しき方々が研修をしていたんですね。
今は需要が無くても、いずれ観光はまた戻ってきます。
その時を見据えて、きちんと力を蓄える。
難しいことですが、立派なことだと思います。

感染症拡大以前の観光

感染症が拡大する以前の観光について、今一度振り返ってみたいと思います。

インバウンド観光客

2019年の、訪日外国人数は3188万人を超えて、過去最多を更新しました。
これは、世界では11番目の数字で、アジアでは中国、タイに次いで3番目に多い数字です。
このうち、東京都の観光客数等実態調査によると、東京都を訪れた外国人旅行者は約1518万人で、訪日外国人のうち約47.6%が東京を訪れたことになります。
この傾向は、ここ2~3年ほとんど変わらず、推移しています。
浅草があるのは東京都台東区ですが、台東区の観光統計によると、2018年に台東区を訪れた外国人観光客数は、約953万人といわれています。
年度が違うため単純な比較はできませんが、訪日外国人のうち約30%は東京都台東区に訪問していることになります。

もちろん台東区には、浅草以外にも上野・御徒町、入谷、谷中・根津・千駄木の谷根千エリアと、魅力のあるエリアにあふれています。
全員が全員、浅草観光をするとは限りませんが、その多くは浅草周辺の観光をすると思って差し支えないのではないでしょうか。
仮に年間900万人が浅草観光をするとすれば、1か月あたり75万人、1日あたり約2万5000人もの外国人が浅草を訪れていたことになります。
これが仮に年間450万人だったとしても、1か月あたり37.5万人、1日あたり約1万2500人が訪れることになり、相当数の外国人観光客が浅草を訪れていたことが想像できます。

日本人の国内旅行

旅行をするのは外国人だけではありません。
日本人による国内旅行事情も、確認をしてみます。

2019年の日本人による国内旅行の延べ旅行者数は、観光庁統計によると5億8710万人です。
そして、台東区の観光統計では2018年の年間観光客数のうち、日本人観光客は4630万人です。
もちろん全員が浅草に行くわけではないでしょうが、約半数の2000万人が浅草を訪れたとしても、その数の多さはお分かりいただけるのではないかと思います。

ターゲットは、誰だったのか?

簡単にではありますが、東京都台東区における日本人観光客と外国人観光客の人数の比較を出しました。
東京都台東区を訪れた日本人観光客は4630万人、外国人観光客は953万人です。
台東区の数字はあくまでも推計のため、100%正しい数値という訳ではありませんが、それでも2018年においては、日本人観光客が圧倒的に多いということが分かります。
そして、その多くが一大観光地・浅草を訪れていたことは想像に難くありません。

それでは、現地で商売をしていた方はどのような方々をターゲットにされていたのでしょうか。
究極的には各店舗を周って確認しなければならないかもしれませんが、例えば雷門から浅草寺まで続く仲見世商店街は、店舗一覧を見ることができるので、ひとつ参考になると思います。

新しい世界で、ユーザーに選ばれるために必要なこと

マイクロツーリズムという風潮

マイクロツーリズムとは、元々観光地のエコシステムを大切にした持続可能なツーリズムという意味合いで、大規模な資本に依存せずに環境にやさしいツーリズムを指す、いわばエコツーリズムの一種の概念として提唱されたものでした。

日本においては、星野リゾートの星野佳路代表が、「自家用車で1~2時間圏内を観光する」ことをマイクロツーリズムとしており、自分が住んでいるところから近い、手ごろな場所を観光することを表した概念として、徐々に定着しつつあります。

コロナ後の新しい世界では、まずこのマイクロツーリズムという考え方を押さえることが重要です。
マイクロツーリズムは、今後1つの旅行トレンドとして定着していくでしょう。

地域社会で選ばれるということ

マイクロツーリズムは、言い換えれば地域住民に来てもらうことです。
そして地域住民に来てもらうということは、その地域社会で選ばれる必要があるということです。
選ばれるためには、商品ラインナップも考え直す必要がありますし、地域住民から選ばれる理由が無ければなりません。
商品ラインナップだけではない、地元とのコミュニケーションというのも必要かもしれません。

地域に目を向けて、根っこを下した経営というものがまず何よりも重要なのです。

コンセプトを持つ

それでは、地域に選ばれるためにはどうしたらいいのか。
それは、コンセプトを持つことだと言えます。
もう少し言い換えると、そのお店に、その商品に、ストーリーがあるということが大事です。
なぜその商品でなければいけないのか?
なぜそのお店でなければいけないのか?

人は不思議と、ストーリーがあるものを選んでしまいます。
どういう経緯でその商品を作ったのか、その商売を始めたのか。
その過程にはどんな人たちが関わっていて、どういう想いなのか。

コンセプトが生まれたときに、その商売は他と差別化ができます。
差別化ができれば、その商品を、その商売を選ぶ理由が生まれます。

もちろん、その後には広く認知してもらう活動も必要になってきますが、まずは他者との差別化をしていく、そのコンセプト作りが重要です。

結果としてのファンづくり

コンセプト=ストーリーということができます。
人は、ストーリーに感情移入します。
感情移入したものには、愛着がわきます。
それは、ファンになってもらうと言い換えることができます。

商品やサービス、会社のファン。
できれば、薄く広くではなく、濃いファンを1人でも2人でも作っていくのが重要です。
愛着をもって、熱狂的なファン、その商品や会社が無いと困る、というレベルのファンを確保することができれば、今回のように一時的に事業が厳しくなったとしても、必ず支援者は現れますし、売り上げ回復までの道も早いのです。
もう少しかみ砕いていえば、営業自粛等でお客さんが離れてしまったとしても、また営業を再開すると聞けばすぐさま戻ってきてくれるのが熱烈なファンです。
そうしたファンを積み重ねていくような経営努力をすることが、これからの観光業界では強く太く生き残っていきます。

 

観光というのは、旅行者と、観光地域との共存・共栄です。
観光地域には、観光事業者と地域住民が存在します。
観光事業者が旅行者の方ばかりを見て商売をすれば、地域住民は自分たちに何のメリットもないと思い、観光事業者のファンになることはありません。
それどころか、旅行者が増えて観光公害・オーバーツーリズムのようなことになってしまえば、むしろ地域住民は旅行者憎し、観光事業者憎しとなってしまうかもしれません。

残念ながら、インバウンド観光は復活するまでにある程度時間を要するでしょう。
いつ復活するか分からない外国人観光客のことを待つだけの体力があるのでしょうか?
1年から2年くらい、全く売り上げが無くても大丈夫というならそれでも良いのかもしれません。
しかし、そういう事業者の方は皆無だと思います。
もし本業がインバウンド関係のお仕事だとしても、こうした危機時にはプランBを用意しておくことも必要です。

観光におけるプランBとは何か。
それはもちろん国内観光旅行です。
本コラムでは東京都台東区を例に挙げましたが、国内旅行の延べ旅行者数が約6億人ということを考えれば、ここに大きなマーケットがあるのは明らかです。
であれば、どうしたらこの大きなマーケットを取り込んで、収益化できるのか。
今はそれを考えるべきでしょう。

そして、そのためのコンセプト作りとファンづくり。
これが重要だということを書いてきました。

本コラムが、少しでも観光事業者の皆さまにとって何らかのヒントになれば幸いです。

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