東京都港区の旅館業許可手続を解説

東京都港区の旅館業許可手続を解説
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旅館業法上の宿泊施設として宿泊事業を行う場合、都道府県か保健所設置自治体に申請をして、許可を取得する必要があります。
東京都の場合23区すべてが保健所設置自治体となっており、23区ごとにそれぞれ旅館業に関する条例が定められています。
今回は、東京都港区で旅館業の許可を取得することを想定して、手続の流れやポイントを解説します。

この記事の想定読者

東京都港区で宿泊事業を始めたい人

宿泊事業の中でも旅館業の許可を取得したい人

目次

港区の旅館・ホテル営業施設の構造設備基準

旅館業の許可を取得するためには、許可取得対象施設の構造設備が一定の基準を満たしている必要があります
そして、その構造設備の一定の基準は、都道府県(保健所設置自治体)が条例で定めることとされています。

ここでは、特に許可取得上のハードルになりやすい部分をピックアップして、その基準を確認していきます。

フロント・玄関帳場

港区独自のフロント・玄関帳場の構造設備基準は定められていない

港区の旅館業条例では、旅館・ホテル営業を取得するにあたってのフロント・玄関帳場に関する規定は定められていません

旅館業法施行令では、旅館・ホテル営業の構造設備基準の1つとして、

宿泊しようとする者との面接に適する玄関帳場その他当該者の確認を適切に行うための設備として厚生労働省令で定める基準

と規定しています。

そして、これを受けた旅館業法施行規則(厚生労働省令)では、

 事故が発生したときその他の緊急時における迅速な対応を可能とする設備を備えていること。
 宿泊者名簿の正確な記載、宿泊者との間の客室の鍵の適切な受渡し及び宿泊者以外の出入りの状況の確認を可能とする設備を備えていること。

上記の両方に該当することと規定しています。

また、厚生労働省が出している「旅館業における衛生等管理要領」という通達の中で、フロントの構造設備基準に対する厚生労働省の解釈の仕方を出しています。
その解釈として、以下のように見解を発表しています。

以下の4項目を満たす構造設備のフロント・玄関帳場を設置すること

(1)玄関帳場又はフロントは、玄関から容易に見えるよう宿泊者が通過する場所に位置し、囲い等により宿泊者の出入りを容易に見ることができない構造設備でないこと。

(2)玄関帳場又はフロントは、事務をとるのに適した広さを有し、相対する宿泊者と従事者が直接面接できる構造であること。

(3)旅館・ホテル営業においては、玄関帳場に類する設備として従業者が常時待機し、来客の都度、玄関に出て客に応対する構造の部屋を玄関に付設することができること。

(4)モーテル等特定の用途を有する施設においては、玄関帳場又はフロントとして、施設への入口、又は宿泊しようとする者が当該施設を利用しようとするときに必ず通過する通路に面して、その者との面接に適する規模と構造を有する設備(例えば管理棟)を設けることができること。

以下の条件を満たす場合は、フロント・玄関帳場の設置が不要になる

1)事故が発生したときその他の緊急時における迅速な対応のための体制が整備されていること。緊急時に対応できる体制については、宿泊者の緊急を要する状況に対し、その求めに応じて、通常おおむね10分程度で職員等が駆けつけることができる体制を想定しているものであること。

2)営業者自らが設置したビデオカメラ等により、宿泊者の本人確認や出入りの状況の確認を常時鮮明な画像により実施すること。

3)鍵の受渡しを適切に行うこと。

港区のフロント・玄関帳場まとめ

以上から、港区で旅館業許可を申請するときには、
①フロント・玄関帳場を設置する
②代替施設を設置することで、フロント・玄関帳場を設置しない
という2つの方法を選択することが可能です。

ただし、フロント・玄関帳場を設置しない場合には、10分程度の駆け付け要件などが課されますので、そうした体制を構築することが可能かどうかの検討は必要です。

客室

客室床面積

一客室の構造部分の床面積は、旅館業法施行令で定める7㎡以上、ベッドを置く場合は9㎡以上必要です。

構造部分がどの範囲まで含まれるかについては、港区旅館業法施行細則で、「構造部分の合計床面積は、寝室、浴室、便所、洗面所その他の宿泊者が通常立ち入る部分の床面積を合計した面積とする」、と定められています。

宿泊者が通常立入らないであろう、押し入れや床の間については構造部分の合計床面積からは除外されます。

客室その他

床面積以外では、
①2段ベッドを置く場合は上段と下段の間隔を1m以上にすること、
窓からの採光を十分に取ること、
③他の客室や廊下との間は壁、ふすま、板戸等を用いて区画すること、
と定められています。

リネン関係

リネン類については、
①宿泊者を宿泊させるために十分な数の寝具類を用意すること、
寝具類の収納設備は、寝具類の数量に応じた十分な広さを有すること、
と定められています。

浴室

浴室は、利用形態に応じていくつかの構造設備基準が設けられています。
具体的には、以下のとおりです。

洋式浴室を設ける場合の浴槽は、利用者ごとに浴槽水を取り替えることができる構造設備であること。
共同用の浴室又はシャワー室を設ける場合には、宿泊定員及び利用形態等を勘案し、十分な広さの脱衣室を付設すること。
和式浴室を設ける場合には、十分な数の上がり湯栓及び水栓を有すること。
④ろ過器等を使用して浴槽水を循環させる場合には、次の構造設備の基準によること。
(1)ろ過器は、十分なろ過能力を有し、ろ過器の上流に集毛器が設置されていること。
(2)ろ過器のろ材は、十分な逆洗浄が行えるものであること。ただし、これにより難い場合には、ろ材の交換が適切に行える構造であること。
(3)循環させた浴槽水を、打たせ湯、シャワー等に再利用しない構造であること。
(4)浴槽からあふれた湯水を再利用しない構造であること。
(5)入浴者の浴槽水の誤飲、飛まつの吸引等による事故を防止するための措置が講じられた構造であること。
(6)循環水取入口は、入浴者の吸込事故を防止するための措置が講じられた構造であること。

港区旅館業法施行条例第7条第7号

旅館業法施行令では、構造設備基準として、当該施設に近接して公衆浴場がある等入浴に支障を来さないと認められる場合を除き、宿泊者の需要を満たすことができる適当な規模の入浴設備を有することと、とされているため、旅館業施設の周囲に公衆浴場が無い場合は客室内浴室か共同浴室の設置が必要となります。

トイレ

トイレは、各階に必ず設置し、トイレが無い客室が存在する階には、男性用と女性用を区分した共同トイレの設置が必要です。

そして、トイレが無い客室の合計定員数に応じて、一定数量以上の便器が必要となります。

全ての客室内にトイレが設置されている場合、その階には共同トイレの設置は不要です。

洗面設備

共同洗面所を設ける場合は、洗面設備を設置していない客室の合計定員数に応じて、一定数以上の給水栓を設置することとされています。

港区の条例ではそれ以外の規定はありませんが、旅館業法施行令では「宿泊者の需要を満たすことができる適当な規模の洗面設備を有すること」とされているので、客室に洗面設備が設置されていない場合は、共同洗面所の設置が必要になります。

その他

ここまで解説してきた設備の他、
①客室にガス設備を設ける場合、
②ロビーまたは食堂を設ける場合、
③調理場を設ける場合、
④客室、脱衣室等にコップ等を備える場合、
といった定めがあります。

この中でも特に、④の客室当にコップ等を備える場合は、衛生的に洗浄できる設備を有すること、とされています。
これは、たとえば専用の食洗器などを用意することまでは求められていませんが、使い捨てではないコップ等を備える場合にはきちんと殺菌・消毒をして衛生的なものを用意できることを担保する必要があります。

港区の旅館・ホテル営業施設の衛生措置基準

旅館業法では、許可の取得に必要な施設の構造設備基準の他に、宿泊者の衛生に必要な措置を講じることとされており、この生成の措置の基準については都道府県(保健所設置自治体)の条例で定めることとされております。

勘違いされがちなのは、この衛生措置基準は許可取得の直接的な条件にはなっていないということです。
あくまでも、旅館業の許可は前記構造設備基準を満たしているかどうかがポイントであることには、注意が必要です。

客室定員

客室定員は、有効面積3㎡について1人までとされています。

有効面積は、港区旅館業法施行細則で、「寝室その他の宿泊者の睡眠、休憩等の用に供する部分の床面積を合計することにより算定する」と定められています。

睡眠、休憩等の用に供さない、浴室やトイレ、押し入れ、洗面所などは有効面積から除外します。

照明の明るさ

照明の明るさについては、各部分に応じて以下のように定められています。

①客室、応接室及び食堂 40ルクス以上
②調理場及び配膳室 50ルクス以上
③廊下及び階段 常時20ルクス以上(午後11時から翌日の午前6時までの間においては、10ルクス以上)
④浴室、脱衣室、洗面所、便所等 20ルクス以上

リネン関係

リネン関係の衛生措置基準は、以下のとおりです。

①布団及び枕には、清潔なシーツ、布団カバー、枕カバー等を用いること。
②シーツ、布団カバー、枕カバー及び寝間着は、宿泊者ごとに交換し、洗濯すること。
③布団及び枕は、適当な方法により湿気を除くこと。

浴室

浴室の衛生措置基準については、以下のとおり細かく定められています。
特にレジオネラ属菌等の感染が発生しないように十分留意することが必要です。

①湯栓及び水栓には、清浄な湯水を十分に供給すること。
②浴槽は、1日1回以上換水し、清掃すること。
③共同浴室は、使用中は、浴槽を湯水で常に満たしておくこと。
④温泉法第2条第1項に規定する温泉を貯留する貯湯槽を使用するときは、次の措置を講ずること。
(1)貯湯槽内部の汚れ等の状況について随時点検し、1年に1回以上清掃及び消毒を行うこと。
(2)貯湯槽内の湯を摂氏60度以上に保つこと。ただし、これにより難い場合には、塩素系薬剤により湯の消毒を行うこと。
⑤ろ過器等を使用して浴槽水を循環させるときは、次の措置を講ずること。
(1)ろ過器は、1週間に1回以上逆洗浄等を行い、生物膜等ろ材に付着した汚れを除去するとともに、内部の消毒を行うこと。
(2)浴槽水を循環させるための配管は、1週間に1回以上内部の消毒を行うこと。
(3)集毛器は、毎日清掃を行い、内部の毛髪、あか、ぬめり等を除去すること。
(4)浴槽水は、塩素系薬剤により消毒を行い、遊離残留塩素濃度が1リットルにつき0.4ミリグラム以上になるように保つこと。ただし、これにより難い場合には、塩素系薬剤による消毒とその他の方法による消毒とを併用し、レジオネラ属菌が検出されない水質を維持すること。
(5)浴槽水については、レジオネラ属菌について1年に1回以上水質検査を行うこと。
⑥④及び⑤の規定による清掃、消毒、検査等の実施状況を記録し、3年間保存すること。

その他

上記事項の他に、
①換気
②防湿
③ガス設備
④施設内の清潔維持
といったことが定められています。

港区の旅館業許可申請手続の流れ

事前相談

まず、申請予定の施設が構造設備基準に適合しているかどうかの確認をするために、保健所へ事前相談に行きます。

港区みなと保健所

所在地   〒108-8315 東京都港区三田一丁目4番10号

アクセス  地下鉄大江戸線赤羽橋駅 赤羽橋口出口徒歩5分
      地下鉄南北線麻布十番駅 3番出口徒歩10分
      地下鉄三田線芝公園駅  A2出口徒歩10分

保健所で対応できる事前相談の範囲は、あくまでも旅館業法に関することだけです。

このほか、消防法については施設所在地を管轄する消防署、建築基準法については港区役所の建築担当部署に、それぞれの基準を満たしているかどうかの確認をするようにしてください。

港区内の消防署は、
赤坂消防署
麻布消防署
芝消防署
高輪消防署
と4つの管轄に分かれております。

近隣住民への事前周知等

港区では2020年8月1日から、新たに要綱が施行されて、申請の20日前までに近隣住民への事前周知と、事前の標識設置をするようになっております。

事前周知

申請の日の20日前までに、書面のポスティング等により近隣住民に所定事項の通知を行うこととされています。

近隣住民

近隣住民とは、申請予定施設の敷地境界線からおおむね10mの範囲内の建築物に居住する者、申請予定施設がある建築物の当該施設以外の部分に居住する者、その他区長が必要と認める者のことを言います。

通知事項

近隣住民に書面で行うこととされている通知事項は、以下のとおりです。

(1)施設の名称及び所在地
(2)申請しようとする者の氏名
(3)施設が旅館業の用に供されるものであること
(4)申請をしようとする日
(5)施設が存する建築物の規模及び構造並びに施設の規模
(6)客室の数
(7)宿泊者の定員
(8)営業を開始しようとする日
(9)問合せに対応する者の連絡先

港区旅館業に係る計画及び適正な管理運営に関する要領第2条
事前周知結果報告書の提出

事前周知をしたあとは、周知に使用した書面と報告書を、申請時に提出する必要があるため、忘れずに準備しておきましょう。

事前の標識の設置

申請の日の20日前から、旅館業の許可を受けるまでの間、所定事項を記載した標識を設置しなければなりません。
標識に記載する事項は、事前周知で近隣住民に書面で通知した事項と同一の内容です。
また、設置する標識の大きさは、A3以上のサイズとされています。

なお、標識を設置した後は速やかに標識設置届の提出を保健所に行います。
設置届には、
①標識を設置した場所の周囲おおむね300メートルの区域内の見取図
②標識を設置した場所及びその周辺の状況を示す写真
③標識に記載された事項を容易に判読することができる写真
の添付が必要です。

住民説明会

港区の要綱では、必ずしも住民説明会まで開催することは求めていませんが、施設のある地域の町会、自治会、近隣住民、周辺住民などから要求があった場合には、可能な限り住民説明会を開催することを求めています。

もちろん、住民説明会を開催しないからといって許可がでないものではありませんが、近隣地域との関係性も重要であるのは間違いないので、柔軟に対応していくことが必要です。

申請

事前周知が完了し、20日経過したところで、いよいよ保健所への申請が可能となります。
許可申請時に、保健所で申請手数料2万2000円を現金で納付します。
申請手数料は、申請の取り下げや不許可時であっても返金されません。

申請に必要な書類は、それぞれのケースで異なりますが、一般的には以下の書類が必要となります。
①営業許可申請書
②構造設備の概要
③フロント代替設備を設ける場合、構造設備の概要の別紙
④申請者が法人の場合、定款又は寄附行為の写し
⑤申請者が法人の場合、登記事項証明書(6カ月以内に発行されたもの)
⑥欠格条件に該当しない旨の申告書
⑦周辺の見取図
⑧建物配置図、各階平面図、正面図及び側面図
⑨客室にガス設備等を設ける場合、その配管図
⑩照明、給排水、機械換気設備関係図面
⑪必要に応じて客室詳細図面、求積表、窓面積がわかる書類
⑫事前周知結果報告書

保健所による検査

意見照会施設

旅館業法では、許可申請施設の周囲おおむね100mの区域内に、学校教育法上の学校や児童福祉法上の児童福祉施設、社会教育法上の社会教育施設で都道府県(保健所設置自治体)の条例で定めるものがある場合には、許可を出す前に、予め意見照会をすることとされています。

この意見照会は、許可申請時に保健所を経由して行政機関内で実施するため、申請者が特別何かをするわけではありません(意見照会対象施設の数だけ、申請書の必要書類の副本を用意する必要はあります)。

しかし、意見照会が発生すると許可申請から許可が出るまでの期間が長くなるため、スケジュール管理には余裕を持っておく必要があります。

港区では、社会教育施設で条例で定めるものとして、
①学校教育法第134条第1項に規定する各種学校で、その教育課程が同法第1条に規定する学校(大学を除く。)の教育課程に相当するもの
②図書館法第2条第1項に規定する図書館
③博物館、公園、スポーツ施設その他これらに類する施設のうち、主として児童の利用に供されるもの又は多数の児童の利用に供されるもので、特に区長が必要と認めて指定するもの
と定めています。

中間検査・完成検査

新築や大規模増改築などの工事が発生する場合で、特に必要性があるときには中間検査が行われて、実際の工事内容が構造設備基準に合致しているかどうかを確認されます。
その他の場合は、許可前に完成検査が行われ、無事に構造設備基準に合致している場合は、許可証が交付されます。

保健所の担当者は必ず見地で立入検査をするので、申請者も検査に立ち会います。

なお、消防法や建築基準法の手続が未了の場合や、それぞれの基準を満たしていない場合は、営業許可が出ないこともあります。

許可証の受領

おおむね、完成検査後2週間ほどすると許可証が発行されます。
この許可証が発行されて、受領したタイミングで、事前に設置した標識などを撤去して、営業を開始することができます。

営業開始後は、構造設備基準だけでなく、衛生措置基準についても違反することが無いよう、注意が必要です。

行政書士TLA観光法務オフィスでは、観光法務の専門事務所として、宿泊施設の営業許可手続サポートに対応しております。
旅館業の手続は、保健所だけでなく消防法や建築基準法といった、他の法令の総合的な知識が要求されます。
当事務所では、専門事務所としてこういった関連法規の知見を有することはもちろん、必要に応じて建築士や消防設備事業者といったより専門性の高いパートナーをご紹介することも可能です。

宿泊施設の営業許可に関するお手続のご相談は、下記のお問い合わせフォームより受け付けております。
あなたからのご連絡をお待ちしております。

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